山本弘:MM9

MM9 (創元SF文庫 )

MM9 (創元SF文庫 )

自然災害と同じように「怪獣災害」が存在するパラレルワールドの日本を舞台として、「怪獣災害」対策に精を出す気象庁内部の組織「特異生物対策部」に所属する若者たちの活躍を描いた連作短編集。著者の怪獣に対する偏愛がこの上もなく感じられる一冊。


気象庁所属の若者、つまり公務員たちの活躍を描いた本作は、そういった意味では僕の考える「公務員小説」に属するものであります。これは「警察小説」や「自衛隊小説」と同じく、公共の利益のために規律と正義を重んじながら、同時に組織的・人間関係的矛盾にいつも頭を悩ませ苦しめられるという、ある種本質的な公務員の悩みを描き出すと僕が考える一つの物語世界で、本作もその延長上にあるように思います。この手の小説の良いところは、やはり主人公たちの問題意識や責任感、そして希望と理想を、けっこう大人の世界を舞台としながらてらいもなく描き出せる、ある種の青春小説的な部分にあると思うのですが、本作はそこに「怪獣」を突っ込むことによって、えも言われる不思議な世界を作り出している。ここが、まず素晴らしく素晴らしいのです。


怪獣を材に採った物語と言えば、大の大人のフィギア争奪戦を描いた大倉崇裕氏の傑作「無法地帯」が思い出されますが、「無法地帯」があくまで架空の怪獣たちを物語の主眼に置いていたのに比べ、本作では台風や地震のごとく、ぬけぬけと「怪獣」が現実の街並みに表れるのです。このあたり、幽霊や動物を対象とした捜査班を描いた天野頌子氏の「警視庁幽霊係」シリーズや、これまた大倉氏の「丑三つ時から夜明けまで」を思い出したりもするのですが、本書を決定的に特徴付ける点に、「怪獣」たちの描かれ方が徹底的にリアル、というかよくわからない参考資料をもとに、まるで本当の災害の様に描かれ出す点にあります。


エピソードの中でもほのめかされるのだけれども、これは「怪獣」物語でもあり、そのような世界が存在すると言うことをアプリオリに納得させるような稠密な描写によって、一種のパラレルワールドを描き出した、強いSF的な物語でもあります。この思い切った立ち位置が、本書を単なる怪獣への愛あふれるマニアックな物語に回収させるのではなく、むしろメタ的な展開を極めて確信犯的に、そして物語の楽しさを全く失わせることなく伝えきるという、いわばポストモダン後の新たな文学的試みを感じさせるものになっていると言っても、過言ではないと思います(たぶん。。。)。


あと、気になるのがテレビドラマのほうですね。もう放送は始まっているとのことですが、監督が樋口真嗣氏、脚本が伊藤和典氏と、面白くないわけがありません。あのガメラスタッフですしね。ほとんどテレビは見ないのだけれども、これだけはチェックしてみないと。