桜庭一樹:GOSICK 5 ベルゼブブの頭蓋

第一次大戦後、架空のヨーロッパの小国における学園に留学した少年久城と、抜群の知識とひねくれた性格を持ちながらその学園に幽閉される少女ヴィクトリカの2人が、次々と遭遇するあやしげな出来事を描いたシリーズ第5弾。今回はヴィクトリカが突然リトアニア修道院に連れ去られ、迎えにでかけた久城とともにそこで勃発した殺人事件に遭遇することになる。


なんだかどのように物語に弾みをつけようか、作者が試みに作り出したのではないかと思われる本シリーズ、次はどの手で来るのかなあと考えるのが楽しみになってきましたが、今回は出張篇、それも怪奇趣味あふれる人里離れた修道院、しかもそこで繰り広げられる不思議な一夜に発生する連続殺人事件と、ずいぶんと手が込んだものになっています。


物語自体は、その一夜をぎゅっと一冊に圧縮つつも、10年前に同じ場所で起こった「奇跡」的な出来事の内幕を描くという、これまた凝った作りになっていて、あっさりとした語り口と通りよい物語の進行に比べ、ずいぶんと複雑な、アイディアの詰め込まれたものになっているように思います。特に10年前のエピソードを挟み込む構造や、これまでずいぶんとまき散らしてきた伏線を、部分的に回収し部分的には回収しないなど、読み手を焦らすような作劇法には、やはり筆者の「物語」に対する執着の強さを感じさせられ、とても爽快です。


とともに、おそらく意図的にではないかと思われるのですが、周到にキャラクターの「属性」から来る予定調和的な展開や表現は避けられ、むしろ構想されていた作品世界に深みと厚さを作り出すための試みがいくつもなされている、そんな感覚にも気づかされました。なんとなくポーを思い起こさせる描写や、海にまつわるエピソードと「狼」というモティーフとの共鳴、そして最後に待ち受けるけれん味にあふれたエピソードなど、見た目の柔らかさとはまったく異なり、むしろあざとさすら感じさせられるものがあります。


また面白かったのは、物語の掘り下げられ方、というのはつまり、その舞台の作り込まれ方の深さが大きいせいか、久城とヴィクトリカの役割が、なにか司会進行役というか、傍観者的なように思えるところでした。というか、この事件って2人がたまたま居合わせただけに過ぎず、それによって物語になにか影響があったかといえば、普通のミステリ的な意味合いではほとんど無かったのではないかと感じます。そのオフビート感が、また楽しいところでもありました。