滝田務雄:長弓戯画 うさ・かめ事件簿

長弓戯画 (うさ・かめ事件簿) (ミステリ・フロンティア)

長弓戯画 (うさ・かめ事件簿) (ミステリ・フロンティア)

見た目はとても素敵なのに性格は少女的で話し言葉もおかま言葉な有名少女漫画家(男性)と、彼を担当する真面目ながらもなぜか彼にはサディスティックに対応する女性編集者が遭遇する、白昼堂々行われた長弓による殺人事件の顛末を描いた長編小説。


田舎の刑事シリーズでは、真面目なのだけれどどこか日常性を逸脱した主人公の刑事、あきらかに日常性を逸脱しアブノーマルの世界に生きる彼の妻、そして狂言回しと言うには余りにも自由奔放過ぎる部下という、極めてエキセントリックな登場人物によって端正な物語を作り上げるという離れ業を演じ切った著者の、待ちに待った新刊です。しかも田舎の刑事シリーズではない長編とのこと。どんな異常な世界が繰り広げられるのか、大変期待して臨んだ本書、その期待は見事に叶えられることと相成りました。




まずなにがよいと言って、編集者の女性の理不尽なサディスティック振りが素晴らしい。確かに、探偵役的役割を担う小説家のおかまっぷりと小心者加減もイラッとくるものがあるのだけれど、この編集者のサディスティック振りはそれとは関係なく、たんに彼女の理不尽な性癖としか思われないところが、やはりこの作家の登場人物だと思わされるところがあります。


もうひとり大事な登場人物として、編集者の父である現役刑事が、また物語の異質性に拍車をかけているところもとてもよい。娘の前では厳格な父親を演じながらも、実は少女漫画ファンであったり、厳格な一面しか知らない娘にさんざん脅された作家が彼の前だけでは「きちんとした」人間を演じて見せたり、そしてまたその自己陶酔っぷりに編集者がイラッときたりと、物語の枠組みが理不尽なことこの上もなく、とても爽快なのです。


肝心の物語はといえば、登場人物たちの強烈な個性に少し霞んでしまったような気もするのですが、意外と複雑かつ端正な進行を見せます。あまりはっきりと書くことははばかれますが、いくつものオープンエンドの問いを、あからさまに読者に提示しつつ物語を進行させる作者の力量には、なかなか感じ入りさせられるものがありました。


まあ、でも本書の一番の魅力は、登場人物たちの変態っぷりに引きずられるようにして千鳥足ながらも見事に収まってゆく物語の構成の妙にあるような気がいます。非常に寡作の印象がある作者ですが、できればもっと勢いよく作品を生産してもらいたいものです。