サイモン・カーニック:ノンストップ!

ノンストップ! (文春文庫)

ノンストップ! (文春文庫)

普通のサラリーマンである主人公のもとに、突然旧友からただごとならぬ電話が。その直後に殺されてしまう彼は、迷惑にも主人公の住所を叫んでしまう。そのおかげで、子どもを誘拐されそうになった主人公は、突然見も知らぬ集団に襲われそうになったり、妻の職場に駆けつけたら殺されそうになったり、とにかく目の前の現実が一変する大変な目に遭う話。

確かに「ノンストップ!」というタイトルなのですが、帯の煽りにあるような「ノンストップ」感が本書の魅力をもっとも素直にあらわすことばとは思いませんでした。むしろ、本書は最後まで明かされない過去を持つ刑事や、何を考えているのかさっぱりわからない妻、そして覆面刑事と名乗る謎の男や残虐趣味の殺し屋など、多数の登場人物が同時多発的に勃発させる群像劇の炸裂力に、その力強さが表現されているように思います。めちゃくちゃ面白かったことは、間違いないのですが。


と感じつつも、原題を見ると「relentless」とのことで、「ノンストップ!」はむしろ極めて技巧的で適切な訳語だとも思います。他方、relentlessの感じさせる、絶え間ない執拗さのような、これでもかというエピソードの折り重ねが、やっぱり本書の良さだと思われます。しつこいですが、帯にあるように「平穏な日常は17行目で破壊される!そして44行目から最後までノンストップ!」と言ってしまうと、勢いだけのアクション小説のように思えてしまい、ちょっと違和感を感じてしまいます。むしろ、本書はアイディアを盛り込みすぎたために、結果的に物語的時間が一冊で約二日というスピード感を、後天的に獲得したように思えます。


しかし、主人公がどうにも割り切れないというか、常識から飛び降りることができない人間として描かれる一方で、ある種不気味な存在として描かれる妻の描写や、2人と大騒動の発端を追いかけることになる刑事の描写の対比には、単にアイディアを詰め込んだだけではない、物語の作り手としてのオーヴァードライブ感というか、おそらく作者の思っても見ない勢いが、物語の中で発生してしまったのではないか、と思わされる凄みがあります。描写はあくまで淡々と展開するところが、また本書の魅力を鋭くえぐり出しているようにも思いました。文春文庫の翻訳ものには、本当にびっくりさせられることが多いなあ。