七尾与史:死亡フラグが立ちました!

死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) (宝島社文庫 C な 5-1)

死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) (宝島社文庫 C な 5-1)

弱小オカルト雑誌のライターとして生計を立てる主人公の陣内は、部数の低迷する当該紙のテコ入れのため、仕事を失う危機に。そんなとき、編集長が提示した救済策が、連載中の「死神」に対するインタビューを取り付けること。都市伝説として、「死神」に狙われた人物は24時間以内に、決して他殺とは思えない方法で死に至るらしい。そもそもそんな存在を信じていない陣内は、それでも失職の危機を回避すべく、天才的先輩の本宮とともに無理矢理死神捜しをはじめるのだが、そんな中ヤクザの組長がどう考えても事故としか思えない状況でなくなるというニュースが飛び込んでくる。その内実を知るにつれ、陣内は「死神」が本当に存在するのではないかと、おぼろげながら信じつつも、締切は刻一刻と迫り来るのである。


うん、面白かったです。文章にいくぶん上滑り的軽みが感じられ、読み始めはちょっと不安ではあったのですが、強引な展開、にもかかわらず緻密に練り上げられたプロットと登場人物の描写が、えもいわれぬ違和感を醸しだし、結果として物語に思わぬ深みを与えているように思えました。


本書の楽しいところは、主人公の行為の一義的な動機は「死神」の正体に肉薄することでもなく、「死神」の殺人を告白することでもありません。単に、生活のかかった原稿を、時間内に書き上げること、この一点にあります。そのため、死を覚悟した某両断院に、自己紹介をしながら取材をはじめたり、直後に死を覚悟した人にぬけぬけとインタビューをはじめたりと、よく考えればとんでもなく場の雰囲気をぶちこわしつつも、フリーのライターとしての因果とも言える商売根性を爆発させます。そのあたりが、意外と本書の一番のインパクトだったように思えます。


また、文章全体のある種のゆるさ、ところどころに仕掛けられた「死神」の罠のセコさ、ドラマにすっかり自己投影した刑事の波瀾万丈な(というとかっこよすぎるのですが)生き様のおかしみにあふれた描写など、本書には本格推理を連想しながらも、悪意すら感じさせる脱力感に満ちあふれています。著者がそのつもりであったのか、僕にはまったくわかりませんが、既存の「本格推理」的なるジャンルに力弱くも徹底的に確信犯的・批判的な挑戦を挑んでいるように思え、とても爽快に読み通すことのできる一冊でした。