大西科学:さよならペンギン

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

学習塾の教師として働く主人公は、じつはペンギンや少女など、不特定の形を形成する不思議な寄生体「ペンタン」とともに、ほぼ不老不死に近い生活を1500年も送っている。そこに、「ペンタン」に攻撃を加える謎の人物が出現、自分と同族かと考える主人公は、喜び勇んで接触を求めるのだが、なぜか不穏な雰囲気が行く手を遮ることになる。


表紙の淡く柔らかい雰囲気とはあまりそぐわない、けっこうシュールでダークな物語のように思えました。学習塾で、もう進学の決まった子どもたちに「確率」の概念をわかりやすく説明する情景から始まる書き出しは、それはそれで眠気を誘いつつも暖かみのある、とてもゆったりとした雰囲気を醸し出しているのですが、その後に始まる不思議な情景の数々は、一気に眠気を覚ましてしまう鋭さがあります。


物語自体は、ボリュームにしては単純で明快と言えます。寄生体と千年の時を過ごす主人公が、謎の存在に攻撃を受け、受け入れたいと思う主人公の思いとはうらはらに、対決を迫られることになる、この一本道で物語は進行します。しかし、そこにこれでもかと詰め込まれたさまざまなエピソードが、このまっすぐ通り過ぎた物語の世界に、微妙な叙情性を導入しているように思えました。


最後まで読むとあんまり救いもなく、また多くのエピソードが充分に育てられなかったのではないか、そんな思いにも駆られることは否定できませんが、それでもこの叙情性と何か塚本晋也監督の「鉄男」を感じさせるようなシュールな展開のマリアージュは、それはそれとしてびっくりさせられたことも確かです。「星の舞台から見てる」と同時期に出版され、おなじような表紙の味付けに惑わされましたが、本書はけっこう過激です。また、おなじ「ペンギン」でも、森見登美彦氏の「ペンギン・ハイウェイ」とはまったくことなる鋭さにあふれる本書、なかなか要注意と感じました。