勇嶺薫:赤い夢の迷宮

赤い夢の迷宮 (講談社文庫)

赤い夢の迷宮 (講談社文庫)

今は小学校で教鞭を執る主人公は、自身が小学生の時、大柳爺さん、略して「OG」とみんなに呼ばれる男の家を拠点に遊び回った経験を持つ。ある日、そのOGから突然同窓会のようなパーティーの招待状が届く。招待されたのは、よくOGと遊んだ7人。その7人のうち、6人が招待に応じ集まるが、話し始めていくらもしないうちに全員が前後不覚の状態に。OGにおこされると、そこは山里にあるOGの別荘の前だった。この、極めて乱暴な展開の中で、次々と殺人事件が起き、主人公は精神の破綻に直面する。


はやみねかおる」として著名な作者が、「勇嶺薫」として著した本書、ようは大人向けに、もう少し想像するといわゆる「本格推理」小説として書いたもののように思われます。しかし。一読した感じはいつもの「はやみねかおる」とあまり変わらない、そんなところが、まず楽しめました。


物語は典型的で、ある目的のためにある場所に集められた男女が、「嵐の山荘」(本書の場合は文字通りなのですが)状態に追い込まれ、そこで次々と殺人が発生するというものです。しかも、その男女は小学生の頃には仲良しでみんなそこそこ普通に楽しく暮らしていたのだけれど、現在はそれぞれに問題や悩みを抱え、そのギャップがだんだんと明らかにされてゆきます。


こう書くと、なんだかとってもステレオタイプ推理小説に思えるのですが、そうでもないところが面白い。まず、本書の探偵役として登場してくる人物が、なんだかとってもヘンテコなひとで、やっぱりジュブナイルの世界に出てきそうに感じられます。ちなみに、ぼくは最後まで彼の名前の意味するところがわかりませんでした。しかも、かっこよいのかかっこわるいのか、まったくわからないまま勢いよく物語を横断してゆきます。


また、物語の構成自体は、上述のようなストレートなものではなく、いくぶんひねった、ちょっとトリッキーなものとして、最終的に立ち現れます。このあたり、なんとなく「虚無への供物」的な世界を思い出させますが、あくまで明るく、清く正しい物語が成立しているところは、やっぱり「はやみね」氏の世界であり、とても安心させられます。加えて面白かったのは、作者後書きで作者曰く、初稿と第二稿では犯人がまったく違っていたとのこと。いったい初稿では誰が犯人だったのか、まったくわからないところが本書の最大の謎かも知れません。しかし、やっぱり「はやみね」氏が書くと安心して読むことのできる物語が楽しめます。作者としては本意では無いかも知れませんが、僕にはそこが一番の本書の魅力のように思えました。