桜庭一樹:GOSICK 4 愚者を代弁せよ

20世紀初頭、ヨーロッパの大国に取り巻かれた小国ソヴェールの、貴族の子弟や留学生が集う学園で起こる不思議な現象を、なぜか図書室に幽閉された少女ヴィクトリカと、日本からの留学生久城が解きほぐすシリーズ第4弾。今回は、学園内の時計塔で発生した密室殺人の謎に、久城が挑戦し、ヴィクトリカがあっさり解決する。


筆者の初期のシリーズで、おそらく「ラノベ」に分類されるであろう本シリーズを読んでいると、近年でも衝撃度としては最高級だった「私の男」や、その原点ともいえる「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」などの、硬く苦しい物語たちとの距離感に、これは同じ作者の手によるものなのか、と不思議な気分になってしまうのですが、それはそれとして本シリーズも楽しく読むことができ安心です。でも、ちょっと感じられる暗く冷たい空気は、なにか「私の男」のような物語たちと通底する気もするのですが。


本作では、突然ヴィクトリカの前に現れた黄金の書物、それは「飛び出す絵本」なのですが、そこに書かれた挑発的な言葉の数々と、時計塔で発生した殺人事件のあいだにどうやら密接な関係があるらしく、まんまと挑発されたヴィクトリカが珍しく事件を積極的に解明しはじめます。


と同時に、久城はヴィクトリカを助けようとするものの、同級生の少女アブリルとヴィクトリカを半ば強引に引き合わせることになり、両者の混乱と怒りを巻き起こしつつ、結果的には両者の間にある種の相互理解を発生させ、ヴィクトリカの社会性向上に貢献することになります。


このあたりのベタ過ぎる展開は、いったいどのような読者がどのような受け取り方をするのかよくわからないところでもあり、おそらく対象読者層に寄り添う形で発想された、一つの形式的な展開だとしか思えないのですが、それよりも本作では「死者」のことばが「生者」を踊らせ、そしてその「死者」の思いになにか切なく、そして辛辣な感情が込められていること、その側面をヴィクトリカが生々しく明らかにしてしまうこと、このよく考えると極めて居心地の悪い展開に、筆者の物事の「暗い」側面に対する偏愛がきちんと現れているような気がして、結局のところとても楽しめました。


登場人物たちの、僕には記号的にしか思えない台詞や、無理のありすぎる設定の数々など、おそらくシリーズを重ねるに当たって著者自身もだんだんときつくなってきたのではないか、と勝手な想像をしてしまったりする本シリーズですが、でも本書で途中に差し挟まれるとても不気味な「アフリカ人の歌」などを読んでいると、楽しくことばを紡ぎ出している著者の姿が思い起こされ、それが物語にやはりある一定の力強さを与えているようにも思えたのです。