枝野幸男:「事業仕分け」の力

「事業仕分け」の力 (集英社新書)

「事業仕分け」の力 (集英社新書)

行政刷新担当大臣の仙谷大臣から「事業仕分け」の統括役を引き受けさせられた筆者が、その後どのような手続きを経て「仕分け人」を選出し、どのように「仕分け対象事業」を選定し、またどのように具体的に「事業仕分け」を行ったのか、政治家としての立場からその内情をわかりやすく記述したもの。


事業仕分け」といえば、多くの場面で「政治の舞台化」「民主党政権アドバルーン」として批判・揶揄されることが多いように思います。どちらかと言えば僕もそのような印象を持っていたのだけれど、やはり当事者の側からの意見も聞かないと判断することはできない。それにしては当事者過ぎる、意見が偏りすぎるような気も本書を手に取ったときには感じましたが、全体としては得るものの多い充実した内容だったと思います。


著者は、仙谷大臣から統括役を打診されたときに、まずその政治的な位置づけを確認し、不確かであることを理解します。おそらく、「事業仕分け」に関わる議論として、このあたりの認識が先行したことは、もう少し知られても良いのでは、と思われます。また、事業仕分けの目的として、著者は「構想日本」の掲げた以下の6点を挙げます。

1)予算項目ごとに
2)「そもそも」必要かどうか、必要ならばどこがやるか(官か民か、国か地方か)について
3)外部の視点で
4)公開の場において
5)担当職員と議論して、最終的に「不要」「民間」「国」「都道府県」「市町村」などに仕分けていく作業」

また、事業仕分けが日本の政治文化を変えるきっかけとなった三つの点を、以下のように整理します。

一つは、議会の役割は、予算を増やすことではなくて、減らすことだというところへ認識を転換させるきっかけとなった点。
二つ目は、事業の目的と手段というものは、区別して議論するのが当たり前なのだというところに立ち返らせる契機となった点。
三つ目は、事業は必要だと主張する方に立証責任があるのであって、不要だというほうに立証責任があるのではないと、認識を改めさせた点。


事業仕分け」には、様々な議論があると思います。僕は、例えば科学技術予算の折衝などを見て、または報道を通じ、いくぶんの危機感を感じていたことは確かです。この少ない時間のなかで、どれだけ基礎研究の予算について、担当官が「仕分け人」に納得させられることができるのか、僕の分野ですらほとんどの人に説明するのが難しいのに、そんなことがほんとうに可能なのか、危惧を感じておりました。また、一部議員の発言がスタンドプレー的であると大きく報道されていましたが、そこにも民主党政権アドバルーンとして利用されているのでは、との思いを感じておりました。


しかし、やはり本書のような当事者からの意見は、まったく違った認識を与えてくれたことも事実です。そもそも事業仕分けの結論には法的根拠は無く、一つのメッセージであること、また、その「事業仕分け」に挙げられる事業には、政治的判断を必要とするものは含まれないこと、また、事業そのものの評価も当然行うけれど、その事業を実施するにあたってのお金の流れについて、厳しく精査すること、これらの事柄は、事業そのものよりも事業の運営のされ方にメスを入れるものと考えられます。このような視点での国のお金の使い方の妥当性を、公開で明らかにしていったという事実は、「事業仕分け」に充分な意義があったのではと考えさせられました。


事業仕分け」の影響のせいか、科研費の一部が緊急に執行停止になったりして、僕としては忸怩たるものもありますが、「総論賛成、各論反対」ではものごとがけっして変化しない現実を踏まえれば、もう少し長期的な視点で基礎研究や若手の安心して研究ができる体制に、なんらかの前向きな影響があることを期待しています。いずれにせよ、政権交代があってからまだ半年、ものごとを変えるには端的に短い期間のなかで、これだけの思い切った事業を行った手腕は評価されても良いのでは、と思われます。科研費の単年度決済方式なんかも、なんとかしてもらえないかなあ。良くも悪くも評価の分かれる事業だとは思いますが、もう少し、見守ってゆこうと思わされる一冊でした。