マイクル・コナリー:暗く聖なる夜 上・下

暗く聖なる夜(上) (講談社文庫)

暗く聖なる夜(上) (講談社文庫)

暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)

暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)

ロス市警を早期退職した元刑事のボッシュは、元同僚からの一本の電話をきっかけとして、若い女性が絞殺された未解決事件の調査に乗り出す。担当した刑事二人がバーで強盗に遭遇し、一人は即死、一人はしゃべること以外の身体的機能を失うという悲劇によって、未解決事件のフォルダに入れられたその事件を、たんねんに証拠を確認しはじめたボッシュの前に、次から次へと意外な事実が顔を出し、気がついたら四人くらいの男たちと殴り合ってしまっているはなし。


リンカーン弁護士」がたまらなく面白かったので、マイクル・コナリーの主たるシリーズ作品らしい本書を購入。とはいってもハリー・ボッシュの活躍に触れるのは本作がはじめてなので、読み始めは人間関係がわからず多少戸惑いました。しかし、やはりマイクル・コナリーの筆力は素晴らしく、不明なデティールをまったく気にさせることなく気がついたら読み終わっているという、高く評価されるのもなるほどの完成度の高い物語に思えます。


一番とまどったのは、いったいボッシュとは何歳くらいのひとで、どれくらいの腕力の持ち主なのか、ということです。当初は年齢が明かされないため、ずいぶんと年寄りなのかと思ったのですが、それにしては行動がワイルドすぎる。危険そうな場面には迷うことなく突入し、ここぞとばかりに他人を激高させることばかり発言、しかもそのすべてが当を得ているというすばらしい頭の切れっぷりは、三十代後半から四十代前半くらいを想像させます。


一方で、プライヴェートでもずいぶんと複雑な関係の持ち主らしく、離婚歴を持つ妻に思いを残しつつも、さまざまな女性に好意を持たれてゆく。このあたりの主人公の都合良すぎる設定は、しかし本書の持つ力強さを説明するものではないように思えます。本書の妙は、やはりその異常なまでに構築された展開の豊かさにあります。そう言ってしまうと、リンカーン・ライムシリーズのジェフリー・ディーバーをほうふつとされますが、それとも確実に違う何かがあります。ディーバーの場合は、あまりに読者の裏をかこうとする意図が露骨すぎるというか、むしろ子供っぽく思えてしまうところが、特に最近のシリーズには感じられますが、本書はなんというか、もっと適当で力任せな気がします。それでいて、主人公はある種の礼儀良さを備え、単純な男の子願望を満たすわけでもないところが好感が持てます。


なんだかんだ書きましたが、とにかく読みながら感じたグルーブ感には久々にしびれる気分を感じさせられました。リューインとはまた違うタイプの作家ですが、おそらくこの人の著作もすべて読んでしまうことになりそうです。