マイクル・コナリー:シティ・オブ・ボーンズ

シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハリウッド署に勤務するハリー・ボッシュのもとに、愛犬が子供の人骨を咥えてきたとの通報が。事実確認の後に掘り起こされた人骨を調べた結果、その子供は過酷な虐待を受け続けていたことが判明する。人骨の状態からおそらく20年近く前に起こった事件を、ボッシュとその相棒はやるせない憤りとともに捜査し始めるのだが、参考人として事情聴取された元児童性愛者の男はマスコミにリークされた情報を知って自殺したり、いい感じになった新米女性警官は捜査中に亡くなったりと、やるせない状況がボッシュの周囲に起こり続ける。


どこかで「マイケル・コナリーは素晴らしい」と書かれていたような気がしたので、近くの書店で探してみたら、本書と「チェイシング・リリー」を発見、どちらもどうしようもなく暗い雰囲気でちょっとためらいましたが、取りあえず本書から購入、予想にたがわずなんとも言えない悲劇的な物語でしたが、読んでおいて良かった。抜群に面白い。


「シティ・オブ・ボーンズ」というタイトルはかなり暗喩的なもので、街中に骨が埋まっているお話ではありません。LAの住宅街の山の中で発見された、児童虐待の被害者と思われる少年の骨のみが本書で登場するボーンズではあります。しかし、このずいぶんと時間が経過してから見つけられた殺人の痕跡が、LAの街中に点在する数々の悲劇を暴き出してしまうという点において、読者は「シティ・オブ・ボーンズ」ということばが意味する凄惨かつ壮絶な世界にいやおうなく直面させられることになります。


と書いていると、どうしようもなく救いのない物語のように思えるかも知れませんが、読んでいるとそういう感じはあまり強くしないところも興味深いところがあります。それはなぜかと考えると、おそらく物語の素早く切れよい展開、主人公をとりまく警官たちの乾ききった明るさと主人公に寄せる愛情、そして悲劇的に思える物語が、最終的には強いカタルシスを感じさせつつも主人公や周囲の人間を救済してゆく、そんな結末を迎えるところにあるのかもしれません。


ディテールについては、例えば警察が事件を構成するためにどのような手続きと証拠品の取扱いが必要か、警察と検察との関係はどのようなものか、また刑事が限られた時間(10日間くらい)でどのような作業を行い、そしてどのように次の事件へと流されていってしまうのか、なんでまあこんなに生々しく描けるのかしらと思わされるものもあります。著者の略歴には刑事弁護士や警察関係で働いたとは書いていないのだけれど、よくまあ調べ上げたものです。


いくぶん繰り返し美味になりますが、本書では一つのできごとが、はじめに想定された事態とはまったくことなる側面を持つことがわかる、そんな出来事の繰り返しで構成されているように思います。読者は、あるときは主人公の高揚感を感じさせられ、またあるときはそれがまったく間違っていたことによる悲劇的な展開に直面させられます。しかし、本書の魅力は、そのような「事実」の反転と解釈が、結局のところ単純なハッピーエンドに収束することはなく、かといって破滅的な事態を迎えるわけでもないという、なにか宙に浮いたような、それでいてこころからのカタルシスをえられるような、そのような地平に着地するところにあるように思えます。これでまた、読むべき作家と作品が更新され、お買い物リストの候補が増加したことが、素直に喜ばしく感じられる一冊でした。