大倉崇裕:白戸修の狼狽

白戸修の狼狽

白戸修の狼狽

なぜか中野駅周辺で奇妙なバイトに巻き込まれ、さんざんなめにあってきた白戸修くんは、めでたく出版会社に就職するも、相変わらず風変わりな先輩やよくわからない事情によって中野駅周辺でバイトをする羽目に。そして案の定、必ずおかしなトラブルに巻き込まれ、それでももちまえのお人好し加減と微妙な頭の切れ味によって、なんとか窮地を脱するシリーズ第2弾。

大倉崇裕氏の著作を読んだのは、確か「白戸修の事件簿」(初出時は「ツール・アンド・ストール」だったと思いますが)が初めてで、このマゾヒスティックとも言える主人公の事件への巻き込まれ具合と、なおかつぼんやりとした主人公がときおり見せる切れ味鋭い洞察力との対比に、とても楽しく読ませていただいた記憶がありました。本作も、それはないよね、といったスラップスティック的展開と、主人公のあくまでのんびりとしつつもどこか超人的な発想力のギャップに、とても楽しむことができました。


内容的には、出版社の仕事中に巻き込まれる中野駅周辺のヴァンダリズムの犯人の追跡、困った先輩に押しつけられた中野駅周辺のコンサート会場での設営の仕事中に発生する妨害事件の究明、中野駅周辺で起こった盗聴事件への介入、中野駅構内で突然巻き込まれた怪獣フィギアを商品とした暴力的スタンプラリーの顛末、そして再び中野駅周辺のコンサート会場での警備の仕事中に起こった事件への対応の、計5篇の中編からなります。


大倉氏と言えば、おそらく一般的には「七度狐」のような落語ミステリーと「聖域」に代表される登山ミステリーが有名かと思われますが、僕にとっては断然「白戸修」シリーズや「丑三つ時から夜明けまで」のようななんとも表現のしにくい「警察」小説、そしてなんといっても大の大人がレアなフィギアの争奪戦を主に中野駅を中心として繰り広げる「無法地帯」のような、こんな馬鹿馬鹿しい内容をよくここまで真面目な文章で作り上げるものか、と感心してしまうような一連の作品が大好きです。本作も、なぜ中野駅にここまで固執するのかと思わせる理不尽な設定と、そしてリズム良く切れ味の良い展開、かつ白戸君のシュールなまでに事件に巻き込まれる体質が渾然となった、とにかく勢いの良い物語の構成に、すっかり取り込まれてしまいました。


また、本作でとても楽しかったのは、「ラリー」と題されたフィギア争奪暴力的スタンプラリーのエピソードに、あの「無法地帯」で搭乗した面々が顔をのぞかせるところでした。やっぱり大倉氏と言えば、僕にとっては「無法地帯」が代表作のように思えるのですが、「無法地帯」に感じられる、もう楽しくて楽しくてたまらないという作者のグルーブ感と、それにまったくついて行けない白戸君の受け止め方の落差が、なんとも痛快でたまりません。「無法地帯」を読んでいなくても、当然楽しめることができる一篇ではありますが、最後の展開など、やはりぐっとくるものがありました。面白かった!