月村了衛:機龍警察

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

「機甲兵装」なる、着ぐるみ式武装兵器が戦争やテロで多用されるようになった近未来、それらの犯罪に対抗すべく警視庁直下に作られた特捜部は、「龍騎兵」と呼ばれる最新型の「機甲兵装」を配備されていた。ところがその搭乗要因が傭兵だったりテロリストだったりすることに加え、特捜部への強引な引き抜きが行われたため、特捜部は警視庁内部どころか警察組織での嫌われ者に。そんななか、地下鉄での乗客を人質に取った機甲兵装によるテロ事件が発生。警察組織との軋轢を抱えながら、犯人捜しに翻弄する特捜部を描いた話。


失礼ながら初めて見る著者のお名前でしたが、略歴を見ると演劇を学び塾の講師を経てアニメの脚本家へとの記述が。この経歴だけでもぐっときましたが、手がけた作品のなかに「少女革命ウテナ」を発見するに及びためらわず手に取りました。その設定は、メカものとしてはテロリズムと近接戦闘に特化した着脱式兵器という意味では「ザ・ジャグル」を、警察内での軋轢を描くという意味では「隠蔽捜査」などを思い起こさせますが、この二つの要素のマリアージュに加え、執拗に描かれる戦争時の描写は、なにかこれまでの警察小説や近未来SF小説とは違った、なまなましい現実感を感じさせ、一気に読み通させる力強さを持っています。


しかし構成としては複雑な群像劇の様相を呈します。傭兵から警視庁にスカウトされた主人公とも言える男の、苛烈な抗争地域での経験談が重奏低音のように本作には響き渡りますが、加えてロシアの民警あがりでどうやら警察組織に裏切られたらしい男や、大規模テロに参加したと思われる自殺願望の強い女性、そして彼女に肉親を殺されたと思われる極めて優秀な整備士や、後輩から目の敵にされる特捜部に引き抜かれた刑事とその同僚など、一冊の中では収まらず、そして案の定すべて語られることのないエピソードが、惜しげもなくこれでもかと本書には詰め込まれています。


日常と戦争の切れ間無き接続を描いた本作は、ある意味では押井守的虚無感に包まれた「平和」の無意識的な受容と、その背後に存在する罪悪感ともいえる紛争への意識的な無意識さを、筆者なりのいらだちを持って批評的に描いたものとも言えるでしょう。しかし、物語全体を支えるグルーブ感は、そんなめんどうなことではなく、やはり近未来、というより「機甲兵装」を除けば現在の日本としか思えない状況で、はちゃめちゃな設定でやれる限りの物語をでっちあげてみたい、そんな作者の弾むような思いが伝わってくるように思えます。とにかく、この作劇法にはのめり込まざるを得ないものを感じさせられ、しかも本作がシリーズでないところが好感がもてます(シリーズ化されるかもしれませんが)。つまり、作者の手によるぜんぜん別の物語を読んでみたい、そんな気にさせられました。