上村敏之、平井小百合:空港の大問題がよくわかる

空港の大問題がよくわかる (光文社新書)

空港の大問題がよくわかる (光文社新書)

JALの経営的な大苦戦をはじめ、現在国内に98存在する空港の経営収支の厳しさや、それを生み出した原因を、国内政治的な側面からたんねんに解きほぐし、いったいなにが問題なのかわかりやすく読み解いたもの。


ある種扇情的にも思えるタイトルですが、内容は極めて冷静な議論に終始し、最近のJALなどに対する感情的とも言える風当たりを一蹴し、また地方空港の「赤字」問題についても冷静な分析を試みるという、極めて現実的であり、また政策を見直すにあたってこれまでいったい何をしてきたのかと言うことを見つめ直すという点でも、非常に示唆に富んだ好著と思えます。なによりも、筆者らの空港や航空業界に対する深い愛情が感じられるのが、読んでいて楽しいのです。


議論としては、空港の「赤字」の実態とその意味を分析する第1章、世界の空港の動向を解説する第2章、主に航空会社の世界的な動向を示す第3章、そして日本の空港のこれからを議論する第4章からなります。この明快かつ論理的な章立てだけ見ても、本書が充分に読むに値するものであることがわかるというものですが、よく考えてみると実は第1章の「空港の赤字」問題は、極めて大胆な議論のような気がしてきました。


ここで語られるのは、まず「赤字」とはいうものの、空港ごとの収支がほとんど開示されていないため正確な議論が不可能であると言うこと、またこれほどまでに空港が増加してしまったのは、空港特別会計という、よく内容がわからない特別会計の存在と、広域自治体の首長の人気取り、ようは選挙対策的な側面が強かったのではないかということ、加えてもし空港の収支が「赤字」であったとしても、その地域における公共性に鑑みその多寡を議論しなければならないと言うことなどです。


民主党に政権が交代して、実際の政策レベルでの変化を感じることはまだあまりありませんし、むしろ徐々に変化することを僕は望んでいるのですが、一方で本書を始めとして、これまでの政策を反省的、もっと言えば批判的に考察し、よりよいあり方を提言する風向きが感じられることが、僕にとっては一番の収穫のように思えます。本書の秀逸なところは、ではそれではどうしたらよいのかと言うことを、世界的(これが「欧米」を意味しないところがまた素晴らしい)な動向をわかりやすく説明した上で、戦略性を持って日本の空港のありかたを提言するところにあります。


具体的には、関西・伊丹・神戸の一体化運営であったり、羽田の一層の国際化と成田の一層の国内化であったり、収益性の高い空港の民営化であったり、運営を地方自治体に委譲し地域のニーズに即した運営手法を引き出すことなど、なるほどなと思わされることばかりでした。加えて、大前提として空港収支を明らかにすることの必要性を説く筆者らの主張には、おおきく頷かされるものがあります。最近日本の航空会社は批判にさらされることが多くてとても辛いだろうなあと思うのですが、筆者らによればJALの(加えてANAも)苦戦の大きな理由は、無秩序に作られた明らかに需要の少ない地方空港に、国からの移行によって不採算路線を設定せざるを得なかったためとのこと。地域の利便性もわかりますが、結果として企業体質だけ批判される現状は、航空会社にとってはやりきれないだろうなあ、と思わされます。