マイク・レズニック:スターシップ2 ー海賊ー

スターシップ〈2〉海賊 (ハヤカワ文庫SF)

スターシップ〈2〉海賊 (ハヤカワ文庫SF)

1980年代風スペースオペラな世界を舞台として、前作では自分が属する軍隊に嫌気がさして離脱を繰り返した天才参謀が、結果陥った海賊という所属でいろいろな仕事を頑張るはなし。


マイク・レズニックといえば、僕にとっては名作「キリンヤガ」でこれでもかという叙情性とやりきれなさを見せつけてくれた作家であり、またそのある種の暑苦しさにかなわんなあと思わされた作家でもありますが、このシリーズはそこに感じさせられたもどかしさを一切感じさせず、むしろただただ面白いがままに筆を運んだとおぼしき物語の展開に、不思議というか痛快というか、なにか微妙なのだけれども、ビジョルドの作品にも似た割り切れた勢いの良さを感じさせられました。そして、二作目である本作にも、その感覚は通底するものがあります。


今回読んでみてびっくりしたのは、本編はともかく作者の経歴です。20才から創作をはじめた著者は、今に至るまで200以上の長編、300以上の短編、そして2000以上の記事を発表し続けているとのこと。「キリンヤガ」で感じさせられた文学的叙情性とは、ある意味対極にある著者の割り切れ感が、本作でもいかんなく発揮されているように思いました。


本作は、まあいろいろと難しい感じの軍隊から離脱し、海賊家業を営むこととなった天才司令官の物語です。そこで面白いのが、司令官が思い悩むのは、海賊稼業といっても無辜な人々を傷つける訳にはいかないということであり、だからといって指令に従う兵士を傷つける訳にもいかない。そうだ!と思って海賊から海賊的作業を働いてみるものの、その略奪品の現金化の難しさに頭を抱えてしまいます。彼の頭の中にあるのは、宇宙船のオーバーホールにかかる費用であり、またクルーの人件費であり、そしてどうやってお金を儲ければよいのかという、極めて即物的なことどもなのです。


この小市民的な発想と、なんだか超未来的な舞台に加え司令官の超人的な発想と行動が、極めて鮮やかな霧結びを見せるのが、一義的には本作の秀逸なところだと思うのですが、でもやっぱり読んでいてなにかだまくらかされていると思わされる筆の運びこそが、僕にはとても楽しいものでした。だって、これが「キリンヤガ」を書いた人の小説ですよ。あの、痛々しくもの悲しい小説をものにするひとの書いたものとは思えないくらい、ご都合主義で楽天的なこの展開、山田正紀氏の小説にも感じる、この険しい状況をいかにして解決したのか、一切描写しないような潔さを、この作品には感じさせられます。ここぞという焦点に向けて執念を感じさせるような書き込みがされた小説では決してあり得ない作品なのでありますが、一方でとてもプロフェッショナリズムを感じさせられる、そんな物語でした。