桜庭一樹:GOSICKs ーゴシックエスー

博識で偏屈で小柄で金髪の少女ヴィクトリカと、留学生の日本人できまじめで内気な少年久城の、出会いとその直後におこった一連の不思議な事件たちを描いた連作短編集。これまでのシリーズの前日談。


角川文庫版で読み始めた本シリーズ、これで4作目ですが、時系列的にはもっとも早い時期の物語だと思われます。そのため、おそらくこれまでのシリーズを読んでいた方が登場人物の相関関係などわかりやすいかと思いますが、でも本作から読んでも充分面白い。これまでにも感じていたのだけれど、このシリーズはほんとうに少年少女へ向けた、清く正しい冒険小説なんだなあと、本作では強く感じさせられました。それは、物語の内容もさることながら、一つ一つの物語の終わり方が、「この後ふたりは〜にまつわる大変な出来事に遭遇するが、それはまた別の物語である」などという、どこか「果てしない物語」の語り口を想起させる記述に強く表れているように思うのです。


物語自体は、ヴィクトリカと久城の出会い、その直後に起こった納骨堂での死蠟発見事件、倉庫での幽霊事件、図書室に忽然と表れた名画の謎など、学園ものらしくこぢんまりとしながらも雰囲気を感じさせる物語で構成されます。そこでのヴィクトリカの役割はあいかわらずアームチェアディテクティブで、手足となって、というよりはむしろ奴隷のように久城がこき使われるという図式が、前作同様淡々と展開されてゆきます。


解説で述べられているとおり、筆者は本シリーズでは自分のエンターテイメント性を最大限発揮しようと試みたとのことですが、僕が本シリーズに感じる良さは、単なるエンターテイメント性だけではなく、おそらくその形式の古典さ加減というか、なにか古き良き冒険小説的構成にあるような気がします。そういえばこういう感じの小説、小学生の時にわくわくしながら読んだなあと思わせる一方で、表現は不自然なまでに現代的という、なにか奇妙な納まりの悪さが、僕にとっては本作の大きな魅力なのです。でも、そろそろ桜庭氏のおそらく本流であると思われる小説群も読んでみたくなりました。遅ればせながら、次は「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」を読んでみようと思います。