榊一郎:ザ・ジャグル 汝と共に平和のあらんことを 2

80年ものの戦争の終結を受け、地球上の軌道エレベータ基地直下に作られた都市オフィール、「永久平和都市」と呼ばれ、そこでは治安から天候に至るまで、すべてが高度な管理システムによって保安され、完璧な理想都市が実現しているとされていた。そこに軌道上から取材に訪れた報道士キャロルと記録士シオリは、人知れず治安を維持しそしてまったくその痕跡を残さない「手品師<ザ・ジャグル>」と呼ばれる集団の存在を、まったくの偶然に巻き込まれたトラブルから知ることになる。その、<ザ・ジャグル>たちと彼ら彼女らに対峙する人々の「終わらない戦争」を描く連作シリーズ第2弾。


前作の緊張感とスピード感あふれる展開はそのままに、さらに作り込まれた世界観と物語の跳躍力の力強さは、前作以上の牽引力を持って一気に読み通させるものがありましたが、本作では前作のエンターテイメント的な側面よりは、むしろ戦争とはなにか、平和とはなにかということを、作者はここまで書き込むつもりはなかったのではないかなと思うくらい、強固に物語の核心に刻み込まれていたように思います。


<ザ・ジャグル>とは、VACと呼ばれる筋肉増強スーツを過剰に重装備にしたような兵器に乗り込んだ、近接狙撃や爆薬、長距離射撃など、いくつかの特技に長けた元兵士から構成される集団で、公共的組織に属するもののその存在は秘匿され、いつもはめだたぬように生活しているなか、なんらかの治安維持に関わる案件があると呼び出されて、市民に被害を出すことなく対象を無力化することを目的として行動します。前作では、この「必殺仕事人」的な世界にぐっときたのだけれど、本作ではその存在はより複雑なものとして描かれます。


本作では、どのような姿形にも自分を変化させることができる、戦時中に生み出された兵器的人間を追い詰めるはなし、戦争の終結によって多大な犠牲を払いながら進めていた兵器開発を中止された男が、オフィールにてその開発を進める傍ら犯罪者をやっつけるという事件を描いたはなし、そして戦後の混乱の中で記憶を一時喪失し、その後取り戻した記憶を頼ってオフィールにたどり着いたとされるフィアンセを追い求める男を描いたはなしの、三篇で構成されます。前作では、基本的にはテロリストとそれを鎮圧する治安部隊、という構成が主軸であったように思えるのですが、上記のごとく本作ではどのエピソードもが、「終わらない戦争」と「戦争によって変わってしまった人間」を描き出すという、なにか一歩踏み込んだというか、物語の設定が作者にこのようなエピソードを描き出さしてしまっているのでは、と感じさせられるくらい、登場人物の心の暗闇と、「戦争」の作り出した傷跡が強調された物語が展開されます。


だからといって読みにくいわけではなく、むしろそのリズム良い描写の展開と練り上げられた構成は、読み手を一気に物語の世界に引き込むことはまちがいありませんが、そのぶん本作は、なんともいえない重い読書感を感じさせました。「軽小説屋」と自称される榊氏ですが、不思議なことに本作を読むと、「軽」小説とはとても思えません。ここには、押井守氏にもなにか共通したところを感じさせる、「戦争」というものへそうとは知らず傾倒してゆく、またその矛盾を描き出すことに力を傾けてしまう、作家としての氏の力強い創作への意気込みというか、因縁のようなものが感じられ、むしろ「重」小説家というか、重度に物語の世界に絡み取られてしまったかのように思えます。そこが、読者としては一番嬉しいというか、読んでいて良かった、と思わされる点なのですが。