ロバート・B・パーカー:初秋
- 作者: ロバート・B.パーカー,菊池光
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1988/04/01
- メディア: 文庫
- 購入: 8人 クリック: 200回
- この商品を含むブログ (56件) を見る
なんとも無理がある設定、予定調和過ぎる展開、素直すぎる子供、ハッピーすぎる結末など、論理的に考えれば破綻一歩手前とも思える物語を、それでもわくわくしながら読ませ、読み終わった後にある種の幸福感の包まれるものに仕立て上げるこの手腕、やはりこの作家は偉大な方でありました。
僕は著者の作品を読んだのがこれで2冊目ですが、初めて読んだ「ゴッドウルフの行方」がかなり真面目なというか、物語の世界に対し著者が真正面から向き合っているような雰囲気を感じさせられたのに対し、本作はなにか自己パロディーというか、あえてシュールな世界を作り出しているように思われます。だって、ほとんど話さず野球中継を聴いて筋トレに励むマッチョな中年男性が、かいがいしく子供にご飯を食べさせ、言い音楽を聴かせ、家造りを教え、洋服のコーディネートまでしてあげるのですから。まあ、良い話です。
もしくは、「ゴッドウルフ」にも感じられたのですが、極めて諧謔味あふれる筆致は、もしかしたらむしろこのような作品にこそ、その切れ味を発揮させるのかも知れません。陰惨に薬の密売人が殺される場面よりは、主人公が彼女に愛想を尽かされて途方にくれる、というような場面の方が。しかし2作品しか読んでいませんが、僕にはスペンサーさんがよくわからなくなってきてしまいました。マッチョで殺し屋の友達もいる一方で、なんの関係もない他人の子供に世話を焼き、週末には無理してバレエなんて見に行ったりして、しかも暇なときは読書に野球中継。いい人だなあ。