ジョージ・D・シューマン:最後の吐息

最後の吐息 (ヴィレッジブックス)

最後の吐息 (ヴィレッジブックス)

死んだ人の手を握ると、その人が最後に記憶していた18秒間が「見える」盲目の女性が主人公のシリーズ第2作目。今回は、拉致した女性にマスクをかぶせ窒息死させるという手口の連続殺人犯を追う。


第2作目と言っても僕が読んだのは本作が初めてです。普通、上手な作家であれば1作目を読んでいなくても楽しめる物語を作るものですが、どうやらこの作者にはそのような意図が感じられません。なんたって、1作目のあらすじががんがんネタバレ的に解説されてゆくのですから。営業的にも、1作目を読ませたくなるような物語を作らなかったのはなぜか、理解に苦しみますし、エージェントはいったい何をエージェントしていたのか、不思議でたまりません。


もとい、物語の方はと言うと、基本的にはサイコな犯罪者をおっかける警察の話と言った感じで、まあ普通のサイコスリラーなのですが、僕にはちょっと描写が過激に過ぎ、最近なにかと慌ただしいこともあり、読んでいる間ずっとくらーい気分にさせられました。また主人公と思われた盲目の女性は、なぜかあまりその主人公感を感じさせません。物語の語り手も、主人公の一人称であったり、その他の登場人物の一人称であったり、誰かわからぬ三人称であったり、めまぐるしく変わるのは作者の作風なのかも知れないですが、僕には必要以上に物語を複雑化させているだけなのではと感じられました。


あとちょっと気になるのが、主人公の女性が盲目である理由がよくわからないという点です。それはまあ、作者の勝手だと言えばそれまでですが、それにしては見えない世界の描写が貧弱すぎるように思います。主人公は豪邸に一人で住んでいるそうですが、いったい管理はどうしているのか。薬をがぶ飲みするシーンがあるけれど、どうやって薬を区別しているのか。食事は誰が用意しているのか、食材の買い出しはどうなっているのか、疑問が絶えずそれはそれで楽しめます。つまり、あまり見えない世界をリアルに書き出そうとしていないように感じられるのです。


ここからは単なる邪推なのだけれど、これってある種の営業戦略なんじゃないかなあ。サイコな連続殺人犯と警察、そしてFBIの追いかけっこに、どのような新規性のある「探偵」をかませるか、超能力、18秒の記憶、ドラマティックな来歴、世間からの注目と冷たい目、これでもかと差別化させる要素を詰め込んだなかの一要素が、視覚的状況だったのではないか。そう思うと、アメリカの現代ミステリの差別化の凄まじさを、なんとなく感じてしまうような気がして、ちょっと薄ら寒くなる思いが残りました。しかし、原題は「Last Breath」で、確かに「最後の吐息」とは読めますが、これってぜんぜん本書の内容と合致していない気がします。美しい表紙といい、ミスリーディングすぎるよ。