黒川博行:暗礁 上・下

暗礁〈上〉 (幻冬舎文庫)

暗礁〈上〉 (幻冬舎文庫)

暗礁〈下〉 (幻冬舎文庫)

暗礁〈下〉 (幻冬舎文庫)

建設コンサルタントで現場の「前捌き」を生業とする二宮さんが、いけいけヤクザの桑原さんの横暴な儲け話に巻き込まれて大変な思いをするシリーズ第3弾。今度は麻雀の代うちを頼まれたばっかりに、警察OBが牛耳る運送会社の裏金の争奪戦に巻き込まれた二宮さんが、相変わらず散々な目に遭わされる。


どれを読んでも圧倒の面白さを誇る本シリーズですが、3作目がこの作品とは知りませんでした。書店に文庫が平積みになっていたので即購入、やっぱり面白い。本書は運送会社と警察の癒着、もしくは警察OBが運送業界での利権をどのように悪用し、どのように利益を得ているのか、という図式が物語の根本を成します。いつもこのシリーズを読んでいて思うのだけれど、なぜ作者はここまで裏話に詳しいのでしょうか。どうやってこんな話を見つけてくるのかなあ。とにかく描写がいちいちリアルで、頭の中で妄想したものとはとても思えません。


物語は、冒頭で桑原さんに接待麻雀の代うちを頼まれた二宮さんが、つい我を忘れて馬鹿勝ちしてしまうシーンから始まるのですが、その接待の相手が現役の捜査官であったところからケチがつき始めます。この捜査官の素行不良は警察組織の知るところだったらしく、二宮さんの周囲には内偵を進める警察官の姿が現れ始め、二宮さん窮地に陥ります。そんなとき、儲け話には嗅覚の鋭い桑原さんが猛烈なるやる気を発露しシノギをはじめるのですが、それにいつものごとく巻き込まれた二宮さんは、いくつもの組筋に狙われるお尋ね者となり、いつものごとくとく隠遁生活を強いられることになります。


相変わらず巻き込まれ型の大騒動が展開される本作ですが、いつものシリーズとちょっと違うところとして、不良警察官の中川さんがずいぶんと登場するところが挙げられます。桑原さんと顔をつきあわす度に剣呑な雰囲気を醸し出してしまう中川さんは、しかし桑原さんと同じくらいに儲け話が大好きで、本作では桑原さんをだしにする勢いで物語に関わってくる。このあたりが、本作の一番の特徴に思えます。


また、本作はおそらく「佐川急便事件」を材に取った物語なのだけれど、この描き方がまたものすごい。実名ではないとは言え、次々と登場する政治家の名前も、少し考えればモデルとなる人物が思い描けてしまい、黒川さんの大胆な物語の作り方に、阿渡欧されつつのめり込んでしまいました。ただでさえ物語の核となる癒着の構図がややこしく、加えて文庫で上下巻のボリュームのせいか、途中で誰が誰やら思い出せなくなるのはいつものことなのですが、それでもすっかり物語にのめり込んでしまうのは、繰り返しですが黒川氏の異常なまでの生々しい、現場感丸出しの作劇法によるところでしょう。しかし、いったいなぜここまで知っているのか、あいかわらず不思議でたまりません。