メグ・ガーディナー:チャイナ・レイク

チャイナ・レイク (ハヤカワ・ミステリ文庫)

チャイナ・レイク (ハヤカワ・ミステリ文庫)

弁護士の資格を持ちつつなぜがSF作家として生計を立てている主人公の女性エヴァンは、エイズで亡くなった親友の母の葬式にて、キリスト教をベースにしたと思われるカルティッシュな教団に属する人々がハラスメント行為を働くのに腹を立て、くってかかるも異様な反論をうける。しかもその教団には、エヴァンの兄の妻で、子と夫を捨てて家を飛び出した義理の姉が関わっているらしい。そうこうするうちに、なぜか教団はエヴァンの兄の子、つまりエヴァンの甥の誘拐を企て、憤激した主人公は凶暴な兄とともに教団に立ち向かう。


これも、なにか読む本はないかなあと漫然と書店をうろついていたときに見つけた本で、エドガー賞受賞という文句と、カルト集団に闘う女性という構図が気になり目についたものです。ちょうど同時にT・ジェファーソン・パーカーの未読作を見つけたのでその時は購入しなかったのだけれど、やはり気になってその後購入しました。「S・キング ガチ惚れ!」という品のない帯の煽り文句に一抹の不安を感じたのですが。


得てしてそういう不安はあたるものだと、最近つくづく思います。解説を読むと、イギリスでしか刊行されてなかった本書を、膨大に寄贈されてくる本のなかからたまたまS・キングがつかみ取り、そして7時間のフライト後には「サスペンスの新たなスーパースターを発見した」とあります。この本を読むのに7時間かかるのかという疑問がまず浮かぶのは置いておいて、そんなに適当にスーパースターが認定されて良いのかという思いがむくむくとわいてきますが、それは本書がアメリカ、特に西海岸受けする構造を持っていたということが大きく影響したのではと考えられます。


本書は、言ってみればオーム真理教が東京で大規模テロ行動を起こすにいたった一連の騒動を、サンタバーバラという風光明媚な西海岸の小都市に置き換えて描いたものだと思われます。キリスト系教団と思えた組織の中に「警備局長」なる役職が存在したり、またそもそもの教団の教義がハルマゲドンを指向するものであったりなど、その相似形というか、著者の下敷きにしたエピソードは明かであり、まただからこそ僕には悪趣味の極致に感じてしまいました。でも、海の向こうでなんとなく聞いたことがあるよ、という人には、面白く読めるのかも知れません。


物語自体は、展開は過激で奇抜、文章も切れよく軽やかなのですが、それが「バッドモンキーズ」になれないのはなぜか。まず、あまりにも登場人物たちの描写が表面的すぎるように思えます。主人公はそれなりに頑張っているので共感できるのだけれど、主人公の兄があまりにも凶暴かつ短気で、とても耐えられません。またそろいもそろって警察官は嫌味な感じで、これもまた面白くない。悪役たちも大量に出没しますが、景気よく殺され続けるのはいかがなものか。そのうち文章まで紋切り調で薄っぺらい感じになってくるのは、これはもう枠組みの派手さを先行させたためとしか思えません。しかし、どうも最近しっとり落ち着いた翻訳物が少ないように思います。リューインやウィングフィールド、ローザンなどが次々と翻訳されていたのは、つい最近のことだったように思うのですが。