中野雅至:「天下り」とは何か

「天下り」とは何か (講談社現代新書)

「天下り」とは何か (講談社現代新書)

同志社大学から市役所勤務を経て国家公務員試験1種に合格、旧労働省に「キャリア官僚」として入省したのち、厚労省の課長補佐まで昇進して退職、その後大学教員となった著者が、天下りの実情とシステムをわかりやすく解説したもの。


平易な文章に加え、官僚機構内部にいたものにしかわからない様々なエピソードがちりばめられた本書は、とにかく読み物として楽しめます。いちばん面白かったのは、役所ごとの天下り先傾向を分析した章のなかの、旧厚生省について書かれた部分で、厚生省が医療や福祉など、国民の生活と密接に関わることから、逆になにかおこると批判の矢面に立たざるを得ないこと、またそれにもかかわらず、厚生省のひとびとは、当事者の視点に立ったまなざしを持つことが苦手に見えると指摘した上で、筆者は以下のように述べます。


「私の労働省時代の上司が、「俺は公務員試験の成績からいえば厚生省にも入れたが、あんな厳しい仕事をするのは嫌だった。苦しんでいる公害被害者や薬害被害者の訴えを無視して、『厚生省は悪くない。絶対に賠償には応じない』なんて言い続ける根性はねえよ」といっていたのを覚えています。」


「賠償には応じない」と言い続けることが「根性がある」ことなのかはわかりませんが、まあ、色々な意味で公務員という仕事の難しさを感じさせる表現だと思わされます。こんな感じで、極めて内部的、かつ分析的な視点で「天下り」について説明がされるのですが、新書というメディアだけあって、僕にはちょっと冗長に感じられてしまうところもありました。著者自らが後書きで述べているよう、「重複感たっぷりの文章」は、編集者の素晴らしい仕分け努力にもかかわらず、なにか散見されるような気もします。また、安倍内閣公務員制度改革に携わっただけあって、現状の民主党政権下における制度改革をずいぶんと冷淡に評価されているように思えますが、僕はもう少し、時間をかけて評価されてはと感じてしまいました。


まあでもそれはあまり重要な点ではなくて、本書の主張は「天下り」を取り締まるのではなく、「天下り」を生じさせる昇進制度を見直すべきだというもので、それは僕も大賛成です。不思議でたまらないのだけれど、なぜ同じ年次に入省したひとびとが一律に昇進しなければモラルハザードが生じるのか、僕にはまったく理解ができません。また、ポストが少ないのならば、ある一定の肩書きを作って、人事競争に生き残れなかった人や、能力はあるけれど現場指向の人、また人事的政治学に興味のない人が一生働けるようにすれば良いだけなのではないかな。むしろ、ここまで解決策が簡単に想像し得るのに、それがまったく議論されないことの前提はなんなのか、そちらが気になってしかたありません。