T. ジェファーソン・パーカー:嵐を走る者

嵐を走る者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

嵐を走る者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

高校の同級生の二人は、一人は麻薬捜査官に、一人はハーヴァードを中退してマフィアのボスになる。その二人の確執は、麻薬捜査官のいきすぎた捜査行為から苛烈なものへと変化し、麻薬捜査官の妻と息子は爆弾によって即死、捜査官も瀕死の怪我を負い、自暴自棄に2年を過ごす羽目となる。そんな折り、お天気キャスターの女性が何者かにつきまとわれるという事件が発生、元の同僚の警備会社にスカウトされてその案件を扱うこととなった元麻薬捜査官は、その事件に昔の友人であるマフィアのボスが関わっていることを発見する。


T・ジェファーソン・パーカーといえば、「サイレント・ジョー」や「ブラック・ウォーター」など、重厚で緻密に練り上げられた物語を作り上げる僕の大好きな作家でありまして、1年前に出版された本書に今まで気がつかなかったのが不思議なくらいの思い出書店で手に取りました。この作家の作風の大きな特徴として、主人公がなんらかの障害または難しい性癖を持つこと、またドン・ウィンズロウを思わせるアメリカ西海岸、特にLAやオレンジカウンティを中心とした、結構ローカルな地域ネタを物語におりまぜるところだと思うのですが、本書でもその特徴がいかんなく発揮されております。


しかし面白かったのが、出だしの雰囲気は「犬の力」を思わせる、マフィアとそれを取り締まる(元)麻薬捜査官の、くらーい確執と壮絶な闘いのはなしに思えたのですが、途中でお天気キャスターという良く訳のわからない要素が入ってくることで、物語の雰囲気が一変するというか、マッチョにハードコアに思えた構成が一気に軟化するように思えるところです。このお天気キャスターがストーキングや嫌がらせをうける理由が本書の極めて中心的なアイディアだと思うのだけれど、これがなんでこんなことを、と思わせるくらいに突飛で、物語のそれまでの雰囲気をぼきぼき脱臼させて行きます。この思わぬ展開が、本書の魅力と言えば魅力かなあ。


また、僕が著者の作品を好きな理由の一つは、著者がUCアーバイン校を卒業したためか、LAというよりはその南、車で1時間程度の場所に位置するアーバイン周辺の描写が極めて詳細で正確なところにあります。実はこの大学には学生時代に交換留学で1年弱滞在したこともあり、ラグナビーチやニューポートビーチ、ハイウェイの405号線など、名前を聞くのも懐かしい。モーテルの名前も「トラベロッジ」ですからね。大学の寮に入れるまでの1週間、トラベロッジで過ごしたことを思い出し、大変懐かしい思いで一杯になりました。全体的には、それを含めて面白かったのだけれど、やはりマフィアと元捜査官の苛烈な闘いという中で、思いもかけない要素が物語の鍵となる、シュールともいえる構成は、評価の分かれるところかもしれません。でも僕はこのシュールさはたまらなく楽しめました。