ドナルド.E.ウェストレイク:泥棒が1ダース

早川書店「現代短編の名手たち」シリーズ第3弾は、ウェストレイクのドートマンダシリーズ10編と、版権の都合上ドートマンダーの名前が使えなかったため編み出された「ラムジー」もの1編の、計11編集録。どれも痛快かつ爽快。


ぼくはこの作家のあまり良い読み手ではなくて、長編「ホット・ロック」しか読んだことがなかったのですが、ドートマンダーの良さは短編の方がひきたつなあと思わされた一冊でした。短編ならではの切れの良さ、そして語り尽くされることのないがために生じる美しさとある種の不条理感は、この極めて都会的な泥棒さんにはぴったりに感じます。


最初の「愚かな質問には」からしてその切れの良さは遺憾なく発揮されるのですが(そもそも「愚かな質問には Ask a Silly Question」というタイトルからしてかっこよい)、泥棒に入ったホテルからの逃走中になぜかカードゲームに入り込み、馬鹿勝ちしたあげくとある事情で儲けた金を巻き上げられるまで抜けられなくなる「泥棒はカモである」、刑務所の中で画家としてデビューした男に振り回される「芸術的な窃盗」など、ありきたりだけれども最後の一行まで息をのませ、そして見事に期待を裏切る展開を見せる掌編の数々には、まったく色あせることのないみずみずしさを感じさせられます。


いちばん面白かったのは、銀行の金庫破りを試みるドートマンダーが銀行強盗とはちあわせしてしまう「悪党どもが多すぎる」でした。このような展開は、ルパン三世で見たことがあるような気もしますが、おそらくこちらが本家でしょう。あ、「ラン・ローラ・ラン」かもしれない。そういえばこの短編のオチにそっくりなエピソードがあったような。。。あれは、ほんとうにウェストレイクにインスパイアされたのではないかなあ。