船木弘毅 監修:図説 地図とあらすじでわかる! 聖書

図説 地図とあらすじでわかる!聖書 (青春新書INTELLIGENCE)

図説 地図とあらすじでわかる!聖書 (青春新書INTELLIGENCE)

旧約聖書新約聖書の、なりたちとそこでの出来事を、地図上に示しながらわかりやすく解説したもの。


面白かった!というより、やはり地図があるととてもわかりやすいのは、建築という商業柄でしょうか。とにかく、本書の記述は聖書の物語の内容やその解釈より、そのできごとがどこで起こったのか、そのため人々はどれだけの距離を移動したり、どれだけの方向に散らばっていったのかということを、とてもわかりやすく示してくれます。


ただ、当然聖書の解説としてもとても優れた書物で「旧約」と「新約」の「約」の字が、神様との契約を示す「約」だとは、本書で始めて知りました。というか、あまり気にしなかったことまで、細やかに説明してくれるところがとても素晴らしい(きちんと聖書を勉強している人には、当然の知識だとは思いますが)。また、本書は聖書の内容もさることながら、聖書の構成を丁寧に説明してくれているところも素敵です。また、その出自を丁寧に説明しながら、ユダヤ教キリスト教、そして補足的ではありますがイスラム教についても、基本的な知識を提供してくれます。


でも面白かったのは、旧約聖書について、けっこう細かく記述がされているところかと思います。一般に「聖書」といえば「新約聖書」を示し(ぼくの勝手な経験に基づくものですが)、旧約聖書はある種の物語として語られることが多いと思われるのですが、著者は旧約の世界を、その時代の政治的な状況にあわせ丁寧に記述してゆきます。ここから見えてくることは、「旧約聖書」の世界とは、やはりユダヤ人の歴史そのものであること、そしてこれが、「新約聖書」に見られるイエス・キリストの改革者としての役割がいかに重大であったかということを示す傍証となる、という事実です。それはユダヤ人に迫害されてしまいますよね。だって、極めてラディカルな思想を打ち出した人ですから。


あと、これはあんまり著者の中心的な話題ではないと思うのだけれど、著者による「奇跡」の解釈は、なかなか興味深いものがありました。著者は(ぼくの解釈のなかで、ですが)、奇跡の存在を、むしろその状況における人々の社会的・精神的なありようと、それにキリストが与えたポジティブなことば(要は認知療法みたいなものか?)によって説明しようとしているように思えます。このような「奇跡」のあり方を、理解する方法は様々だとは思いますが、著者の結構論理的な整理には、むしろ大きな説得力を感じました。世間では浮かれ騒ぐ日と化したクリスマスに、とてもぴったりな一冊だと思います。