本田由紀:教育の職業的意義 ー若者、学校、社会をつなぐ

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

教育、特に高等教育以後における、将来の職業との関わりについて論じたもの。


おもしろいのが、序章が「あらかじめの反論」と題され、「教育に職業的意義は不必要」「職業的意義のある教育は不可能」「職業的意義のある教育は不自然」という、著者が頻繁にでくわす反応への反論からはじまるところです。そして、この反論への答えが、本書のもっとも重要な主張をあらわしています。曰く、教育における職業的意義、またはぼくのことばで言えば働くときに役に立つ教育のありかたには、「適応」と「抵抗」の二つがある、と。


「適応」とは、つまり会社などですぐに役に立つ、使える人間である能力のことを指し、「抵抗」とは働く場において理不尽な、または大変困った事態に陥ったときに、どのように泣き寝入りせず対処するかという能力を指します。これは、とても説得力があります。自分のサラリーマン体験を振り返ってみても、もう少し状況に対処する力があれば、と思わざるを得ないからです。でも少し違和感があって、それは必ずしも「抵抗」ではなかったのです。むしろ、どのように周囲に助言を求め、どのように適当に受け流すか、そのような能力が足りなかったなあ。でも、それでも「抵抗」のありかたには代わりはないかあ。


「建築」という学科では、一方で極めて専門性が高いため、職業的意識が強いなあと、本書を読んで思わされたことも確かです。ところで、建築学科を卒業した人が、必ずしも建築職に就くとは限りません。思いつくだけでも、ウェブデザイナーや広告業、映像作家、写真家、マスコミ関係、医者など、さまざまな職種が挙げられます。これは、建築という一つの専門の中で、例えばフォトショップの使い方から模型の作り方はもちろん、法律や自治体、医療や福祉など、さまざまな分野とのつながりがあるからかと思われます。そういう意味では、建築学科の教育は、著者の主張する「柔軟な専門性」に近いのでは、と思わされました。でも、こういう学科は特殊でしょうね。