架神恭介・辰巳一世:完全教祖マニュアル
- 作者: 架神恭介,辰巳一世
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/11/01
- メディア: 新書
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という体裁をとってはいますが、実はまったくそんなことはなくて、「宗教」の成り立ちと意味を、極めてクールに、なおかつ同時代的に分析したもの、そんなようなものに本書は思えました。まず著者らが説くことに、「教祖がどれだけハッピーか」ということがあります。教祖は人をハッピーにして、しかも人々から尊敬を受け、後世に名を残すことまでできてしまいます。本書は、この一番最初の「人をハッピーにする」ということを「教祖」の「役割」とすることを基本に、宗教の成り立ちと変遷を解き明かしてゆきます。
その構成がとても楽しくて、章立ては「キミも教祖になろう」「教義を作ろう」「大衆に迎合しよう」「信者を保持しよう」等々、いわゆる「宗教観」からすると極めて非本質的な議論が展開されます。しかし、良く読むとどれもこれもまっとうな見解に思えてくる。例えば教祖になるためには「反社会的な行為」をしようという議論があります。著者らは、これは犯罪的行為のことではないと前置きした上で、例えばイエス・キリストが行ったことは、当時のユダヤ教的社会規範から外れていたこと、仏陀がおこなったことはカースト制度に基づいた社会的規範を逸脱していたことを例に挙げ、「反社会的行為」が求められている状況がつねに「社会」と「反社会=逸脱者」を分け、理不尽な状況を生み出しているか説明しているように思えます。
しかし、このように読んでいると本書はいったいなんのために書かれたのか、よく分からなくなるところが面白い。本書の序章からして極めて反語的というか、ひねくれた書き方をしているのですが、一体著者らは本書で何を議論し、誰にその議論を届かせようとしたのか、首をひねりたくなる思いで一杯です。簡単に考えれば冒頭に述べたとおりなのですが、この1980年代生まれにして秀逸な文章を書く著者らの思いは那辺にあるのか、不思議な感覚を味わうことができました。表題ほどには軽い内容ではなく、まじめに読んでとても面白かったです。