小林めぐみ:地球保護区

地球保護区 (ハヤカワ文庫JA)

地球保護区 (ハヤカワ文庫JA)

人類がいろいろやらかしてしまったために地球は滅亡、異星人の技術で地球の外に逃げ出した元地球人たちは、地球を「保護区」として回復を見守ろうとするが、数百年の内に数百万人の人たちが違法に地球に住み着いてしまう。そんななか、マッドサイエンティストが生み出した千人のクローンの一人の青年が、500歳という妖怪姉さんといっしょに地球に調査に追いやられ、宇宙船を打ち落とされたりゲリラ少女に殺されそうになったりと大変な目に遭うはなし。


いーっす。このベタな展開、恥ずかしくなるくらいのボーイ・ミーツ・ガール感、悪い人は悪くて良い人は良いという設定、ヘタレな主人公の予想通りの大活躍、すべてが定型的で予定調和なのに、それでもしみじみ心から楽しめてしまいます。もう作者の手のひらで踊らされっぱなしと言うか、なんというか。。えらくいいですぜ、本書は。帯の下段、おそらくハヤカワ文庫JAに共通して書かれている「忘れるな、SFという希望」という文言にぐっときてしまったですよ。


それはともかく、作者の筆力は相当なものだと思います。読み終わってみればある意味典型的とも言える展開に感じるのだけれど、読んでいる途中はさっぱり物語の先を読むことができない。これは、おそらく本書の「ミステリ」的な構成のなせる妙でしょう。そもそも主人公が地球に飛ばされた真の理由ははじめから謎めいているし、勃発する物事も説明はすべて後回し、読み進むにつれある程度見通しがついたと思ったら、すぐさま物語は暗闇に突入します。後書きを見ると、なんとなく物語に引っ張られて書き上げた風に読めますが、おそらく本当にそうなのではないかな。非常に強い牽引力を、本書には感じさせられました。


前作「回帰祭」は、あらすじはさっぱり憶えていないのだけれど、爽やか若者SF群像劇に見せかけて、最後にふっと冷たく落とすような、そんな不思議な物語だった(様な気がする)ので本書も迷わず手に取りましたが、前作とは違った意味で本書もなにか冷ややかなまなざしを感じました。このひねくれた作劇法と、王道とも言える展開、そしてくだけた文体が、全体的に不思議と物語をハッピーなものにしている、そんな感じがするのです。