柳広司:はじまりの島

はじまりの島 (創元推理文庫)

はじまりの島 (創元推理文庫)

ビーグル号の2回目の世界測量の旅に乗り合わせたチャールズ・ダーウィンが、ガラパゴス諸島で起きた奇怪な事件の謎を説くはなし。


これは再読か再々読か、あまり自信は無いのですが、最近さっぱり読書勘がにぶってきてしまったようなので、こんな時はやっぱり安心感のある柳氏の作品をと思い、文庫落ちしていたのでまたもや買って読んでしまいました。


さすがに内容はほとんど憶えているとおりなのですが、複数回の読みにはそれなりの面白さがあります。始めて読んだときにはとても驚いた多言語間、多文化間での「言葉」の違い、つまり文字通り言葉の違いによる意味のすれ違いは、今読んで思うとかなりナイーブに表現されているような気がして、むしろ安心して楽しめました。今回読んで面白かったのは、柳氏の強調点のつけかたです。このような文章の書き方は、何を参照しているのだろう。古典文学の翻訳を、現代文に置き換え、なおかつ置き換えの意味を多重に援用して自分の物語に盛り込む、そんな果敢な試みが感じられる、というのは俯瞰的すぎる印象でしょうか。最近の洗練されきった作風に比べると、ずいぶんと荒削りで素朴な感覚もしますが、そのためか勢いのある言葉と物語の流れが、そして不気味なまでに構築されきった世界が感じられ、やっぱり名作だと思わされました。一番面白かったのは、やはりカメの甲羅のエピソードでしょうか。奇妙に乾いた感じがするのだけれど、そのあっけらかんとした感じが何か恐ろしく感じます。これはミステリーというよりかは、他の何かなのではないかなあ。何なのか、良くわかりませんが。