桜庭一樹:GOSICK2 その罪は名もなき

舞台は1924年、とあるヨーロッパの小国に設立された学園で、なぜか幽閉状態にある少女と、その少女に心惹かれながらもサディスティックな言動に翻弄される少年が主役のシリーズもの。本作では、山の中の孤立した集落に主人公たちがおもむき、少女の母親にまつわる大昔の殺人事件の謎を解く。


文庫化第2作目の本シリーズ、前作はそのあまりにもベタな設定、にも関わらず極めてひねくれた展開に、すっかりのめり込んでしまいましたが、本作はそれに比べるとちょっとおとなしく感じます。その理由はなぜだろう。思うに、少女ヴィクトリアが外出してしまうと、その肉体的非力さが明らかになりすぎ、恋愛感覚にまったく疎い少年久城くんの「男の子」的側面が強調されすぎてしまうからではないでしょうか。つまり、ヴィクトリアの超人的側面があまり感じられず、極めて典型的な男の子願望充足的物語に感じられてしまうきらいがあるように感じるのです。


とはいうものの、作者の作劇法にはやはり有無を言わさぬ力強いものを感じました。ところどころに挟まれるモノローグ的断章は、物語全体に通底する定型的雰囲気と極めて大きな不協和音を奏で、物語をなんだか訳のわからないものにすることに成功しています。解き明かされる謎自体にはさほど意外感は感じないのだけれど、良く読むとそこに至るまでの出来事や人間の描かれ方は、意外と常軌を逸しているように思えます。このアンバランスさは、相変わらずとても気持ちが良いものです。


でもやっぱり、ヴィクトリアには安楽椅子探偵を演じて欲しいなあ。このシリーズには、やはりヴィクトリアという「神の視点」から見下される気持ちよさがあるように思います。それが久城くんの勘違いしながらもなにか優越感を憶えさせる視点で語られると、いったい読者としてはどうやって本書を読めばよいのか、少し混乱してしまう気がします。そのあたりの幻惑感も、これまた面白くはあるのですが。