スティーグ・ラーソン:ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上・下

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下

何者かに偽情報を掴まされ、名誉毀損記事を書いたとして実刑判決をうけた熱血政治記者が、その陰謀に対する根拠を餌にある財閥の引退した黒幕から家庭内の調査を依頼される。いやいやながらに調査を開始した主人公は、おもわぬ手腕を発揮していくつもの隠れていた事実を暴き出す。一方で、事前に主人公の身辺調査を依頼されていた精神的に不安定ながら天才的クラッカーの女性は、もちまえのねじ曲がった好奇心で主人公の関わる事件に首を突っ込み、これまた意外な真実を掘り当ててしまう。


各所で絶賛されていた本書をようやく購入、一読して著者がスウェーデン人で、舞台もスウェーデンであることに驚きました。ずっとアメリカかと思っていた。内容的には、「ドラゴン・タトゥーの女」とあるものの、基本的には主人公の熱血政治記者が巨悪を暴き出すという構図が主軸であり、天才女性クラッカーは少なくとも本作では物語の一つのエピソードとして効いているように思えました。


で面白かったのかというと、ひじょうに面白かった。各所で絶賛されているとおり、その重厚な展開とそれにも関わらず切れのある描写、練り込まれたプロット、裏の裏まで考え尽くされた登場人物の台詞など、確かに最近呼んだエンターテイメントの中でも極上の部類にはいることは間違いありません。でも少し不満もあって、まず「天才的」と呼ばれる女性のクラッキング技術(これを「ハッキング」と呼ぶことにも違和感があります)が、それほど大したものでは無いように感じられます。だって、何をやるかとおもったら、おもむろにグーグル検索なんですから。あと、ちょっと読者サービス的な露悪的描写の多さも気になった。もうすこし抑えて描いてくれた方が、物語の緊迫感は高まったように思います。


とはいいつつも、勢いよく上下巻を読み通させた作者の力量は、さすがの一言です。スウェーデンのミステリ作家と言えば、やはり陰鬱としながらも切れのある作風で大好きなヘニング・マンケルを思い出すのですが、マンケルがある意味で保守中道だとすれば、本書はそれにアメリカ的エンターテイメントを加え、なおかつ重厚な歴史的背景を付け加えた感じがします。あと、極端に意識された女性への暴力に対する、著者の熱い怒りが感じられることも素晴らしい。このシリーズは、間違いなく全巻読んでしまいそうです。