ジョージ・R・R・マーティン:洋梨型の男

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

「モンキー療法」なるダイエット手法に取り憑かれた男、大学時代のルームメートから悪夢のような行為をされる人々、喧嘩別れした娘から送られる肖像画に悶え苦しむ男、居酒屋での喧嘩と世界の終わり、不気味な「洋梨型の男」につきまとわれる女性、大学時代に意地悪されたことを根に持ってねちねちと嫌がらせをする男にむしろ救われてしまった人々など、SF風味のホラーを集めた作品集。


J. R. R. マーティンと言えば、「氷と炎の歌」で壮大な世界を構築し、こんな作家はトールキン以来ではないかと驚愕したものですが、一方で「タフの方舟」などSFを書かせてもこれまた最高、「フィーヴァードリーム」はちょっと苦しいかなあと思ったけれど、「サンドキングス」は期待に違わぬ傑作で、こんな作家がいたもんかとしみじみ感じさせられたものです。


また彼の執筆の傾向として、ジャンルを問わず描きまくるらしいと言うことは知っていたのですが、本作のように極めて後味の悪いホラー的な作品集は初めてであり、とても期待して呼んだのですが、やっぱり面白かった。何がおもしろいかって、ホラー的といいながらも一方ではSF的なガジェットに満ちていたり、はたまた幻想文学的な茫洋とした雰囲気に包まれた作品もあるかと思えば、不条理な設定によって主人公たちが救いを見出す、なにか青春小説的な展開をとげるものまで、まさにマーティンの真骨頂とも言える豊かな着想と絢爛な作劇法が存分に発揮されているからなのです。


氷と炎の歌」は、あまりにも物語が壮大にすぎ、しかも間欠的に発売される文庫版をとびとびで読んでいたため、途中ですっかり誰が誰やらわからなくなり、これは年末にでもまとめて読もうとあきらめていましたが、このような様々なテイストの作品を一気に読まされると、その迫力にはやっぱり驚かされるなあ。僕が特に好きな作品は、最後にメタ的な展開を向かえる「子供たちの肖像」と、ある粘着的な男の復讐譚に思えるものの最終的には青春小説的な結末を向かえる「成立しないヴァリエーション」でしょうか。でも他の作品も、どれも粒ぞろいで読み応えがあります。河出書房の「奇想コレクション」は、たまに奇想すぎてついて行けない気持ちになることがありますが、これはアプローチのしやすい素敵な作品集でした。また仲村融氏の翻訳も素晴らしいんだ。