黒川博行:螻蛄

螻蛄

螻蛄

いつもトラブルに巻き込まれ半死半生の目に遭う自称建設コンサルタント二宮さんと、その元凶であるイケイケヤクザの桑原さんが、こんどは仏教系のお寺さんの内紛に乗じて一発仕掛けを打って大もうけを狙うものの、またもや大変な目に遭う話。


前回が北朝鮮での潜入行だったのに比べ、今度は基本的に国内で騒動が繰り広げられるので、少し安心して読み進むことができるのですが、相変わらず桑原さんの横暴な物事の進め方に事態は混乱を極め、期待通り二宮さんは殺されかかってしまい、しかも事件は東京まで飛び火して、妙なスケール感の大きさを感じさせる展開です。いつもながら登場人物の関係は複雑を極め、途中で誰が誰やらさっぱりわからなくなるのですが、そんなこと気にしないでも楽しめます。なぜならば、主に桑原さんの行動が行き当たりばったりなので、ゆっくり考えるまもなく事態は二転三転し、追っかけてるだけで相当な緊張感を感じさせられるから。


前作同様、単行本で本編533頁の大著ですが、その長さをまったく感じさせることのない理由は、ひとえに二宮さんと桑原さんの漫才としか思えない掛け合いの妙にあります。この、二人の主人公的人物による掛け合い漫才的会話文を中心として進む物語のスタイルは、初期の頃から黒川氏のお得意とするものですが、どんどん磨きがかかってきているように思えます。これはなんでかな。おそらく、初期の頃は物語の背景と会話の位相が微妙にすれ違っているように思える部分が見られるのに対し、特にこの二宮桑原シリーズでは、この二人の会話が物語の牽引力として、暴力的なまでに物語を支配しているからでしょう。全体としてはいつもの負け戦と泥をかぶる二宮さん、というスタイルは変わらないのですが、前作にもまして勢いと力強さが感じられたのは、そのせいだと思われます。


しかし、本作を読んでいると、いんちき大阪弁が口を突いて出そうになってしまうところが面白い。こんなに大阪弁の語り言葉が気持ちよくよめる作品は、他にはあまり思いつかないなあ。途中でどうしても大阪風お好み焼きが食べたくなり、駅前のお好み焼き屋でソースを本書にちりばめながら豚玉をいただきました。