稲葉剛:ハウジング プア 「住まいの貧困」と向きあう

ハウジング・プア

ハウジング・プア

自立生活サポートセンター・もやいの代表理事である著者が、住まいの貧困の諸相とその原因を描き出し、政策的解決策を提言したもの。


なぜ昨日とりあげた「思想地図」にあれほどの違和感を抱いたかということの理由の一つに、同じ日に同じ書店で買った本の一冊がこれだったということがあるのかもしれません。本書は、年末の日比谷公園に集まった派遣切り労働者たちをはじめ、様々な理由で「住まい」を失うことになった人々のそこに至るまでの道のりを、彼ら彼女らの肉声を交えながら、実に丁寧に掘り起こしてゆきます。


そこから見えてくるのは、「好きにやっているからそうなった」という、じぶんで選んだ、またはじぶんの努力が足りなかったためにその環境に甘んじている彼ら彼女らの姿ではまったくなく、構造的にそうあらねばならぬよう追い込まれた人々と、その構造を作り出す様々な「制度」の問題に他なりません。これこそ、まさに「思想地図」で取り上げるにふさわしい主題だったのではないかなあ。


それはともあれ、本書はなかなか強烈です。先日無認可の「老人ホーム」で火災が発生し高齢者が幾人も犠牲になったけれども、その人々のうち何人かは都内の自治体から紹介されてそこに住まざるを得なかった人々でした。これは、都内に高齢者施設が不足していることに起因しますが、その理由にはいくつかあって、法的な問題もあれば融資に関わる問題、そしてもちろん社会保障費の財源に関わる問題もあります。このような視点を、著者たちは現場に足を運び、見て、聞くことで、極めて現実的なものとして押さえてゆきます。また、本書のもっとも示唆的なところは、常にまなざしが自らに反省的であるところでしょう。新宿の段ボールハウス撤去騒動でのある種祝祭的な瞬間と、その後に発生した火災で死者を出したという現実を、筆者は深い悔恨を持って振り返るとともに、その経験が現在の活動にどのような影響と基盤を与えたのか、淡々と述べてゆきます。障害者の住宅問題を専門の一つとして取り組むぼくにとっては、当事者の周囲をわかった顔をして歩いているだけのじぶんの後ろ姿をみせられたようで、我に返らされるところがありました。いずれにせよ「住まい」の問題はいろいろと根が深く、また分野横断的にしか解決できない問題のように思えるのですが、このような人がいることは、少しだけ安心させられるものがあります。なぜかアマゾンに書影が無いのが残念。