飯島裕一編著:健康不安社会を生きる

健康不安社会を生きる (岩波新書)

健康不安社会を生きる (岩波新書)

「健康」になろうとするがゆえに、どんどんと「不安」にさせられてしまう状況が生み出されているのではないかと考える編者が、さまざまな専門家たちと現状のあり方についてインタビューしたもの。


岩波新書だし、決して柔らかいとはいえない書名にもかかわらず、かなり気楽に読み通すことのできる読み物でした。それは、基本的には編者が健康問題を専門とする香川大学教授の上杉氏や日本医療史を専門とする北里大学教授の新村氏、「フードファディズム」で有名になった群馬大学教授の高橋氏にインタビューを行うという形で記述されているのですが、このインタビューの的確さによるところが大きいと思います。


ぼくは「対談」という形式が大嫌いで、多くの場合お互いがまったく関係のないことを言いっぱなし、議論は収束どころかかみ合うこと刷らせず、「ああ、それはそうですよね」「そうそう、それでそれはですね。。。」などという落語的な世界に陥ってしまうことが大半だからと感じるのですが、本書は編者の切り込み方が鋭く楽しめます。編者は完全に相手の意見を理解した上で、そのなかの一番の批判的な側面を引き出すような、鋭い質問を切り出します。しかし、よく考えてみるとそれは技術的な問題と言えるのかも知れず、本書のもっとも大切なところでは無いのかもしれません。初読では軽い科学系読み物として読めてしまう本書の面白さは、意外とそのインタビューの積み重ねの中に、政策的指向に対する批判であったり、マスメディア批判であったり、当然情報を消費する消費者への鋭いまなざしが感じられるところにあるように感じれられました。また、当たり前とおもわれる「健康」などの概念を、ことごとくぶっつぶし、現状のままでは決して手にはいることのできない、なにか脅迫的目標であることを赤裸々に明らかにしてゆく編者の質問の形式は、とても切れ味良く心地よい物であります。だからといって、本書は僕の生活をより怠惰にすることをお勧めするものというわけではありませんが、これだけの識者が現状の健康に関する言説に対して批判的なところをみせてもらえると、なんだか気が楽になることができ爽快です。