マット・ラフ:バッド・モンキーズ
- 作者: マットラフ,Matt Ruff,横山啓明
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/10/12
- メディア: 単行本
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精神病院で「あたし」がドクターのインタビューを受けながら物語を語るという構成を持つ本書は、まずはじめからなにが本当なのか、まったくキャンセルされた状況で展開します。そこで彼女が語る物語は荒唐無稽としか思えないもので、あまねく写真に添付された監視カメラ、斧を持ったピエロ、脳溢血や心筋梗塞をおこすハイパーな銃など、B級アメリカ映画的テイストに充たされています。このあたりからして、もうなんともいえないいい感じが漂います。しかし本書の素敵なところはそのいいかげんな物語とはうらはらの構築されきった展開で、ドクターとのインタビューによる三人称の語りと、彼女自身が一人称で語る語りが交互に差し挟まれ、どちらがほんとうでどちらが虚構か、だんだんとわからなくあたりがとても上手い。物語自体もどんどん正気を失ってゆくというドラッグ小説的な勢いを持ち、各所で高い評価を受けているのも頷ける、とても質の高いエンターテイメントでした。
解説で、著者ははじめフィリップ・K・ディックの世界をイメージしながら書き進めて至ったとあります。しかしこれも解説にあるとおり、本書は結果としてはディック的な陰鬱で混沌とした虚実入り交じる世界よりは、むしろハリウッドムービー的なバチンと音のしそうな爽快感にあふれた世界を作り上げています。ディックよりもはるかに読みやすいし、訳文のリズムも素晴らしい。ソフトカバーの単行本という見つけにくいジャンルで手に取るのが遅れましたが、とっても楽しめました。