吉田徹:二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ

二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ (光文社新書)

二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ (光文社新書)

「政党」というものの成り立ちと意味を歴史的に紐解いた上で、二大政党制と「政権交代」の政治構造がいかに特殊なものか、そしてどれだけ少数の人々の意見を切り捨ててしまう危険性があるか、論じたもの。


まず始めに一つ言いたい。この本はとても面白いのですが、第1章が難しくつまらない。だいたい朝の通勤時間に本を読む僕にとっては、読み始めでいきなり眠くなるのはかなり厳しいのです。第1章では政党の定義や位置づけ、そして政治のあり方について、かなり抽象的な議論が展開されます。それはこれ以降の議論に必要だからと言う著者の気持ちはわかるのですが、第2章から劇的に面白くなることを考えると、編集上はもう少し後の方に持ってきた方が、本書が読み通される可能性が高まったと思います。


それはさておき、全体的には素晴らしく刺激的で面白い本でした。言うまでもなく昨今の「政権交代」や、「二大政党制」への文字通り「問答無用」な流れに強い違和感を感じていた僕としては、このような著作が新書で出てくれるのは本当に嬉しいことでした。これまでもいくつもの新書でここ10年間の政治の流れを読まされてきたけど、本書で展開される解釈は極めて高い妥当性を感じさせられ、また同時にどれだけ自分が政治の流れに無関心であったか、強く気がつかされるものです。


本書の議論は二つに整理できるように思います。一つは、1993年の自民党下野に至るまでとこれまでの政治の流れを、「政治改革」もしくは「構造改革」とはあまり関係のないものだったと総括する部分。もう一つは、本書のタイトルに現れているとおり、「二大政党制」がそれほど民主的な形式では無いのではないかと議論する部分です。僕が面白かったのは、著者の思惑とは異なってしまうとは思いますが、むしろ前者の方で、1993年、僕が高校1年生だったときに感じた世の中が変わるんだという無根拠な高揚感が、どれだけ予定調和の世界によるものだったのかということを突きつけられ、目が覚める思いがしました。後者に関しては、これはあまりびっくりするような議論とは感じられず、それなりに理解できるもののどれだけ筆者の言うところの「政治のリアリズム」に切り込んでいるのか、多少疑問がのこるものでした。でも、驚いたのは著者が1975年生まれ、つまり僕より2歳年上なだけだという事実です。ほぼ同じ時代に政治の激動期を経験していたにもかかわらず、ここまで深く政治の力学を読んでいたのかと思うと、ただただ凄い人はいるものだと思わされるだけであります。しかもこの若さで北海道大学の准教授。。。それだけの才能があることは本書からびしばし伝わってくるけど、でもやっぱり凄いなあ。


一方で、著者の感性に大きく同感してしまう一つの理由に、この世代の近さがあるように思います。突然中西正司氏と上野千鶴子氏の「当事者主権」が引用されたのにはびっくりしたけれど、僕もこの本には蒙を啓かれる思いがしたことを鮮やかに思い出しました。特に筆者が最後に述べる、個々の違いを前提としたデモクラシーのあり方を理想とする議論には、深く共感します。実際僕が今目標としていることは、少数の人々のための建築計画学の構築ですから。正規分布の裾野を観る必要があると常々思っている僕には、筆者の主張は極めてまっとうなものに響きます。


それでもちょっと筆者には聞きたいことがあって、一つは地方自治、または基礎自治体の政治レベルと、国政レベルの問題です。本書では地方自治は議論の対象には含めないことが断られてはいるものの、どうも政治参加が国政レベルのみに限定されているように思え、なんとも違和感を感じます。例えば市民ネットワークのような、むしろ基礎自治体レベルでの政治へ積極的に関わっている人々をみると、もう少し政治参加の仕組みは多用な気がします。あと、これはあまり人のことをいえないのだけれど、モデルを提示するのは良いがどのように個別的に「リアルな政治」に関わってゆくのか、少し具体的に示して欲しかった(家庭生活レベルでの言及が後書きにありますが、これは決して些末な問題ではありません)。どうしても「専門家」とならざるを得ない人々が、それでもリアルな地平で闘うことができるのか、これだけ聡明な著者から具体的な示唆をもらえればと、強く感じました。


でも、本書の魅力はその語り口にあったりします。例えば政治学について、著者はこんなことを書く。
「それにもかかわらずこの法則(小選挙区制が二党制を助長する傾向があるという説;引用者注)は、政治学という極めて科学性に乏しい学問で(それは学問として価値がないというわけではない)、おそらく最も多くの政治学者が納得する法則となっている。」
この軽く諧謔に溢れながらも、問題に真摯に立ち向かっていることが感じられる文章に、一番の信頼を感じました。これは、やっぱり世代の問題なのかなあ。