林譲治:ファントマは哭く

ファントマは哭く (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ファントマは哭く (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

遠い未来、人類は火星まで乗り出してブラックホールを利用したエネルギー源を作り出すのだけれど、地球に残った人々の恨みを買って戦争が勃発、そんななか遠い宇宙からやってきた「ストリンガー」なる知性体の出現が争いに終止符を打ち、完全に火星の人類が地球人を勢力的に上まわった状況で、こんどはもう一つ、良くわからない存在が現れる。その正体不明の存在とストリンガー、そして人類が、微妙な均衡とすれ違い、そして衝突を経験する話。


申し訳ないのだけれど、このお話し引っ張りすぎではないかなあ。編集者の意向かも知れないけれど、やはりこのシリーズは地球人以外の知性体とのファーストコンタクトまでの緊張感と、火星の人類と地球の人類との軋轢の泥臭さの対比にその良さがあるのであって、ここまでくるとシリーズを引き延ばしにかかっているとしか思えないのです。それがどのようなところに現れるのかというと、例えばなんだか皆さん涙もろくって、異星人にメッセージが届かないだけで地球人は泣きの涙に暮れてしまうし、そうかと思うとふとしたことで相手に極端な感情移入をしてしまい、心強くなって元気になってしまう。この単純さは、それはそれで良くも悪くもないのだけれど、ここまで繰り出されると単調さにとって変わってしまうのです。別に「SF」というジャンル、または「ジャンル」という枠組みにかかわる問題でも無いかとは思うのですが、枠組みにのっからないと成立しない物語というのは、マニアックな楽しみはあるのだけれども、やっぱり力強さに欠けてしまうと思うのです。具体的に言えば、本作を林氏の作品を読んだことの無い人に勧められるかというと、残念ながら進められない。少なくとも前二作を読んでからではないと、ちっとも面白くないはずです。本作の完成度は高いのだけれど、そのあたりの残念さが感じられてしまいました。