L. T. フォークス:ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ
ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ (ヴィレッジブックス)
- 作者: L ・T ・フォークス,鈴木恵
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2009/05/20
- メディア: 文庫
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ヴィレッジブックスはいったいどのようなコンセプトで出版する本を選んでいるのかと思って調べてみたところ、やっぱり日本や海外の知られていない才能を発掘することが重要なミッションの一部とのことで、本作もそんな感じで聞いたこともない作者なのですが、出版してくれてありがとう!と言いたくなる素敵な作品でした。
物語自体はそんなに複雑ではなくて、イカした上司やいかつくも心優しい同僚、はじめはやな感じだったのに途中から毎朝朝食を共にするようになる部長刑事、古くからの親友でどうしようもなくなった主人公に住むところを提供するダニーなど、それはないでしょ、と言いたくなるくらいに善人たちに囲まれた主人公が、自分の価値と仲間たちの優しさを見つけることで自分を取り戻してゆく、そのプロセスが本書の中心と言えます。これに殺人事件がくっついているわけなんですが、僕の感想としてはそれはおまけみたいな物で、まずなによりも主人公の人生の再生のプロセスがとても生々しくて面白い。解説にもあるのだけれど、副業として行い始めるデッキの据え付けなど、素人とは思えない描写の細かさや、ピザの配達にまつわるデイテールの書き込みなどを読むにつれ、西原理恵子では無いのだけれどとても経験してないとは思えない。おそらく、これは作者の自伝的な物語を、ミステリーという形で小説にしたとしか思えません。そのためか、主人公の言動や周囲の人々のあり方は、ことば一つ一つに真に迫る物が感じられ、読み応えがあるのはもちろん、こんなに軽くてちゃらんぽらんな物語なのに、なにか心に迫る切実感が感じられ、面白いというか、背筋をただして読んでしまいたくなると言う、不思議な経験を楽しむことができました。しかし、原題は「Cold Slice」ですぜ。直訳すれば「冷えたピザ」みたいなところかなあ。ヴィレッジブックスはとても好きな出版社だけれど、もうすこしクールなタイトルにしてもらえれば、手に取るまでこんなに時間がかからなかったのに。