J. G. バラード:永遠へのパスポート

永遠へのパスポート (創元推理文庫 629-7)

永遠へのパスポート (創元推理文庫 629-7)

稀代の幻視人、バラードによる初期の作品を集めた短編集。汚染された地域で事故により地球に帰還することなく無くなった宇宙飛行士の軌跡を見守る「砂の檻」、遠い惑星へ何世代にもわたって旅をしていると思わされている人々を描いた「アルファ・ケンタウリへの13人」、ジャングルの奥地へ墜落したはずの有人宇宙船を探す国連職員が現地人コミュニティの暴君として君臨する白人に出会う「地球帰還の問題」など、相変わらず冷たい視線で科学と人間のせめぎ合いを描いた9編収録。

これも、間違いなく一度読んだことのある短編集ですが、創元推理文庫の復刊フェアで取り上げられるという幸運を逃してはならないと思い購入しました。他の短編集に比べこれはあまり印象に残るところが少なかったのですが、読んでみてびっくり、というか愕然としたというか。代表作と一般に呼ばれるものはあまり収録されていないのだけれども、翻訳も含めこのクオリティは異常です。特に、「アルファ・ケンタウリへの13人」は、これぞバラードと言いたくなるような、冷徹なまでの作劇法の中に人間の揺れ動きを描き出す、彼の作品の中でも傑作と呼べるものだと感じました。また、「監視塔」や「逃がしどめ」のような、習作に近い作品が収録されているところも、本短編集の魅力であります。この並びに、言いようもない倦怠感と絶望感、そしてドラマティックな展開で彩られた「砂の檻」などがさし挟まられるこの編集には、もう素晴らしいの一言しかありません。どれもが初期に書かれたものなのだけれども、どの物語にもバラードがぎっしりつまっている、そんな気にさせられる一冊でした。創元推理文庫はたまになぜこれ?と感じさせられてしまうものもあるものの、こういう極めて良質な作品を復刊させるところは本当に尊敬に値します。売れないでしょうが、是非この路線も頑張ってもらいたい物です。