J. G. バラード:永遠へのパスポート
- 作者: J.G.バラード,永井淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1970/07
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
これも、間違いなく一度読んだことのある短編集ですが、創元推理文庫の復刊フェアで取り上げられるという幸運を逃してはならないと思い購入しました。他の短編集に比べこれはあまり印象に残るところが少なかったのですが、読んでみてびっくり、というか愕然としたというか。代表作と一般に呼ばれるものはあまり収録されていないのだけれども、翻訳も含めこのクオリティは異常です。特に、「アルファ・ケンタウリへの13人」は、これぞバラードと言いたくなるような、冷徹なまでの作劇法の中に人間の揺れ動きを描き出す、彼の作品の中でも傑作と呼べるものだと感じました。また、「監視塔」や「逃がしどめ」のような、習作に近い作品が収録されているところも、本短編集の魅力であります。この並びに、言いようもない倦怠感と絶望感、そしてドラマティックな展開で彩られた「砂の檻」などがさし挟まられるこの編集には、もう素晴らしいの一言しかありません。どれもが初期に書かれたものなのだけれども、どの物語にもバラードがぎっしりつまっている、そんな気にさせられる一冊でした。創元推理文庫はたまになぜこれ?と感じさせられてしまうものもあるものの、こういう極めて良質な作品を復刊させるところは本当に尊敬に値します。売れないでしょうが、是非この路線も頑張ってもらいたい物です。