黒川博行:国境
- 作者: 黒川博行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/10/15
- メディア: 文庫
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京極夏彦ばりのぶ厚さに手に取るのをためらっていたのですが、読みはじめるともうたまりません。物語の長さなんか考える暇もないくらいの息を飲む展開に次ぐ展開、そして相変わらずの二宮と桑原の絶妙な掛け合い漫才のような会話にすっかり没入し、あっという間に読み終わってしまいました。ああ、次が早く読みたいなあ。
書き出しのシークエンスが、二宮と桑原の北朝鮮に向かう飛行機の中での会話で始まるように、本書の半分くらいが北朝鮮での二人の大活躍に割かれています。ここでの二人のハチャメチャぶりも面白いのだけれど、やはりおそらく実際に取材したのでは、または実際に北朝鮮を訪れた人に綿密なインタビューをかけたのではと思わされる、北朝鮮の現状の描写には、いったい何を読んでいるのか忘れてしまうくらいの緊迫感と迫真に迫るものがあり、とても楽しめました。ただ本書はいたずらに北朝鮮という、ある種の「ワンダーランド」を異化して描くのではなく、綿密な取材に基づき、また二宮と桑原という、異なる視点の持ち主に語らせる手法によって、複雑な現状をそのまま複雑に描き出します。このあたりも、とても素晴らしい。
では肝心の物語の方はというと、これもまあ、とても良いんだ。粗筋的には北朝鮮でいろいろあって、這々の体で逃げ帰ってきた二宮が、日本でも大騒動に巻き込まれるというものなのですが、ここにまったくもって予想可能なベタな展開が加わり、安心して物語の世界を楽しめる、完全大人向け娯楽小説となっています。その中で執拗に繰り返される二宮と桑原の関西弁の会話の是好調ぶりも健在で、うっかりするとエセ関西弁でしゃべりたくなっている自分を発見してしまうことは補償済みであります。
しかし、初期の頃より最近の作風の方が断然ぼくには楽しめます。創元推理文庫で初期の警察物をいくつか読み、それはそれで素敵な小説たちだったのですが、なにかその頃の技巧的問い言うか、押さえつけたような静かな文体よりは、現在のなんでも放り込んだ闇鍋みたいな世界の方が、関西弁の会話文の切れ味が増すように思います。次回の「疫病神」シリーズ、楽しみでなりません。