山口雅也:古城駅の奥の奥

古城駅の奥の奥 (講談社ノベルス)

古城駅の奥の奥 (講談社ノベルス)

おかしなおじさんが居候しているおうちの小学生が、塾の夏期講習の前に選んだ自由研究のテーマが「東京駅のひみつ」。そのおかしなおじさんと東京駅の実地調査におもむいたところ、凄惨な殺人事件の現場に居合わせてしまうはなし。

新刊が出れば必ず購入し、そして決して期待を裏切らず楽しめる作家さんが幾人かいます。例えば柳広司氏とか、鳥飼否宇氏とか、奥泉光氏とか、津原泰水氏とか。そのなかの一人が、本書の作者である山口雅也氏なのであります。デビュー作「生きる屍の死」からして、転倒した世界が転がり続けるという、現実を転倒させる手法には呆れ果てるほどの驚きと興奮を感じさせられてしまった作品なのですが、その後大病を患ったらしく一時お休みされます。その後に執筆された「奇遇」がこれまでの作風を覆す様なものすごい作品で、その後もいちいち不思議にとんがった作品を産出されているように思います。

本書は、東京駅の架空の改築計画を元にしながら、実のところ東京駅のひみつを描きたいだけにつくられたという、とても素敵な物語です。面白いのは、途中まで普通のミステリ小説として展開するのですが、突然世界観をひっくり返すような出来事がおこってしまう。密室殺人とか、首切り死体とか、まるで横溝正史的な純正ミステリの範疇のお話しかと思いきや、突然異世界にジャンプしてしまう。そこが、やっぱり山口氏の小説の魅力なのだと、つくづく感じさせられました。

また本書の物凄いところは、もともとミステリーランドという基本的には少年少女向けの作品として作られたものだということです。ミステリーランドは装丁も装画も、そしてもちろん物語、つまり執筆陣も物凄いのですが、単価が高いのでもう少し大人になってからすべて買いそろえようと思い、本作のもととなった作品も読んではいませんでした。本作は改稿されたとのことですが、おそらく核となる話し口は少年少女向け、つまりジュブナイルだと思われます。それでこの展開ですか。。。山口氏の、ひねくれきった洗練さには、やっぱりどきどきさせられるというか、非日常的な感覚を呼び覚ましてくれる力強さを感じさせらてしまうのです。ノベルズなので税別880円、お買い得です。