ジャック・ヴァンス:ノパルガース

ノパルガース (ハヤカワ文庫SF)

ノパルガース (ハヤカワ文庫SF)

突然異世界に拉致された科学者のおっさんは、どうやら世界が「ノパス」という、見えない寄生生物みたいなものによってゆがめられてしまっていることに気がつかせられる。しかも、その「ノパス」の発生源は地球らしい。それをなんとかしないと地球を破滅させちゃうぞと脅かされた主人公は、地球に帰っていろいろしてみるものの、精神病院に送られてしまったり異星人にせっつかれたりと、大変な目に遭うはなし。

導入部分からして必要以上に重苦しい展開がつづくため、最初の方を読んだ後数週間ほったらかしておいたのですが、読むものがなくなったので続きを読んでみたところ、これが意外と面白い。その後一気に最後まで読んでしまいました。

全体的には荒唐無稽でその場その場でのアイディアで書ききったな、という、勢いの感じられる作品だと思います。お話しとしての肝は、主人公しかわからない寄生生物に取り憑かれた人間からすると、主人公は非常に不愉快かつ不気味なものとして感じられるという設定で、その後主人公が再び寄生生物に取り憑かれた状態になると、これが逆転するという発想は、なにが「正常」なのか、なにが「正しい世界」なのかという、ディック的な世界に対する問いを彷彿とさせる、極めて洗練されたものを感じさせられました。

しかし本書の醍醐味は、その洗練具合ではまったくなくて、物語中盤から後半にかけて発揮される、その場しのぎのアイディアの羅列とご都合的な展開という、作者の突っ走り方にあるように思います。とにかく、後半部分はもう理解不能というか、黙って信じろ!みたいな作者の強引なメッセージが強く感じられ、これはこれでものすごい力強さを感じさせられました。物語としては完全に破綻しているというか、そもそも物語を構築する意志がみじんも感じられなくなるのだけれども、そこは作者の力強さとして楽しく受け止められる包容力みたいなものが、本書には感じられたので満足です。