桜庭一樹:GOSICK ーゴシックー

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

ヨーロッパの架空の小国に設けられた上流階級の子女が通う学園に日本から留学してきた少年は、図書館の頂上に設けられた部屋に住み着く不思議な少女と交流を持つ。その少女と、一度は海に沈没されたとされる線上で繰り広げられる惨劇に巻き込まれるはなし。

いろいろ評判になっていた本書ですが、角川で文庫化されたので手に取りました。桜庭氏の作品は数作しか読んだことが無いのだけれど、研ぎ澄まされているようでねらい澄ました緩さがどうにも気にかかり、次から次へと読みたくなるようなオーラをあまり観じずにいました。でも本書は面白かった。まず舞台設定が典型的で素晴らしい。少年少女で構成された世界に混入する異物としての美少女、そして図らずも彼女に巻き込まれてゆくことになる純情無垢な少年。ああ、この典型的な展開!そして物語は突然ゴシックホラーに舵を切ってゆくのですが、これがまたなんとも緊張感がなくて素晴らしい。

ある種の予定調和に向かって全速力で失踪する本書は、それでもところどころに読者をつまずかせるようなしかけをばらまいています。そのしかけが、また懐かしい感じがして良いのだ。金原氏の解説は、残念ながらなにも本書の良さを伝えていないし、またきわめて凡庸な内容に終始しているため、本書の想定読者層を粉飾してしまうのだけれど、これは極めてマニアックなミステリー読みか、または江戸川乱歩の少年探偵団に心ときめいてしまうような、ある種の偏執的な嗜好を持つ人に書かれた小説だと思います。その偏執性を包み込むために、意図的に典型的でステレオタイプなキャラクター増が強調されている、そのように思いました。

お話しとしては特に驚きもなく、一直線で進んでゆくのですが、この安心感もまた素晴らしい。僕はこのような極めて保守的で安心感のある小説、大好きです。連作らしいが、続編もすぐに角川で文庫化されるのかな。続刊が楽しみでなりません。