市川眞一:政策論争のデタラメ

政策論争のデタラメ (新潮新書)

政策論争のデタラメ (新潮新書)

民主党への政権交代を完全に意識しながら、いままでの主にテレビのニュースキャスターや「政治評論家」たちによる政策議論がいかに適当なものであったのか、数量的なデータとともに示しつつ、今後のあるべき政策を著者なりの視点からまとめたもの。

この本にはいくつもの素晴らしい点があるのですが、一つには各章の構成があります。本書では、「環境」「医療」「教育」「郵政」「政治」の五つの政策分野が論じられますが、まずはじめに、著者の数値的データと経験をもとに現状分析を丁寧に行い、同時にいままでの政策のおかしなてんをくっきりと浮き彫りにします。そして、ここからが素晴らしいのですが、著者は4から5個の政策の具体的な方針を示し、その一つ一つに解説を加えてゆきます。例えば郵政ではこのような感じ。
郵政民営化は、今一度立ち止まって再考すべきだろう。現在の計画は、軸足が明確ではない。官による資本配分の縮小を図るためなのか。郵貯マネーを国債管理政策に使いたいのか。郵便局を社会的インフラとして残したいのか。郵政事業に従事する雇用を守りたいのか。(中略)そうした観点から、郵政民営化法の見直しについて、以下の四点の実施を提案する。
1)四社一体型の民営化は凍結する、2)郵貯簡保は時間をかけて廃止する、3)ゆうパックは廃止して、信書のみ国営を維持する、4)郵便局は、都市部はコンビニに委託、過疎地は国営を維持する」
そしてこのあとに、一つ一つの提案に対して解説が続きます。

著者の提案はかなり過激なところもあり、部分的には首をかしげざるを得ないところも散見されます。しかし本書の良さは、その妥当性を読者が何らかの方法で確認できるところにあります。なぜならば、すべての論拠が示されている、または示そうと努力されているからです。そのため、いくぶんあやしいところは自分で検証することができるし、そうでないところは安心して納得することができます。
またもう一つ本書の興味深いところは、本書のなかでもはっきりと書かれているとおり、著者は小泉政権当時に構造改革特区評価委員など、小泉政権に深く関わり、その「構造改革」に深く関わっていたという事実です。著者は、その履歴を隠すことなく明らかにした上で、多少いいわけ的な雰囲気は感じさせるものの、当時の思いと現在から見た過ちを、はっきりと表明します。このような視点と立ち位置は、本書の信頼性の向上に多大に寄与していると思われるのです。残念なところは、やはりタイトルの品の無さかなあ。もう少し、落ち着いたタイトルであれば、もっと多くの読者が手に取りやすかったと思うのですが。