佐々木譲:愚か者の盟約

愚か者の盟約 (ハヤカワ文庫JA)

愚か者の盟約 (ハヤカワ文庫JA)

北海道は室蘭、一人は闘争的な、一人は理論的な労働組合の活動家が偶然スト破りとの抗争で出会う。その30年後、それぞれの息子の一人は父の後を継いだ社会党代議士に、一人はその秘書として、社会党から送り込まれる。社会党でも右よりな立場を貫く代議士と、彼を裏から幾多の手段で助けつつ自分の野心に燃える秘書の二人は、期せずして政界を大きく揺るがす動きを作り出してゆく。

なんでまた、こんな古くさい物語が店頭に平積みにされているのかと思ったのだけれど、読んでみてしびれるような興奮とともに理解が至りました。これは、起こらなかった「政権交代」を描いたものであり、そこに描かれた図式は、多少形を変えながらではあるけれど、いま現在ぼくたちが経験している、政治的大転換を予想したものなのです。

それはともかく、最後に至るまでもとても面白い。本書は社会党という党の内部を、良く知るものがその良さと悪さを、赤裸々に書ききったものだと言えます。江田五月なんてとても懐かしい名前なのだけれども、こういう背景があったのか。横路さんも、なんだか突然消えてしまったけれど、こういうことなのか。その頃は、なんとなくイメージとしてしか捉えられなかった人々の横顔が、党内部の力学によって語られたとき、はからずも彩りを増してしまうのは、とても面白い。また、その視点から語られる自民党の政治家、特に中曽根氏の描かれかたは、ご本人には申し訳ないのだけれど、とても痛快でたまりません。

途中でなんとも不必要に思えるエピソードが出てきたりして、大丈夫かなこの物語と思ったのだけれど、その心配を杞憂にしてしまう作者の筆力は、さすがの一言です。しかし、政治をこのように語るという手法があるのかと、なんだか感心しました。小説家の政治に対する参加の方式として、このような方法はとても良いなあ。しかし、自社さ政権の成立と瓦解は、さぞかし作者にとっては悔しかったろうなあ。。。