似鳥鶏:さよならの次にくる <新学期編>

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)

高校3年生に進学した葉山君は、またもやいくつもの事件に巻き込まれることになる。そのたびに、卒業して遠くに行ってしまった伊神先輩に泣きついて、ことのなりゆきをときほぐしてもらう。

基本的には前作<卒業式編>と同じ構成で、ひとのよさから様々な無理難題や怪事件に巻き込まれてしまう葉山君を、妙な切れ味のある思考を働かせる伊神先輩が助けるというもの。ただ、今回は伊神先輩が遠くにいってしまうため、葉山君がせこせこ動いて情報を集め推理を働かせ、最後の最後で伊神先輩が現れるというところがちょっと違います。また、物語の中心が葉山君により焦点を合わせているためか、妙に葉山君モテモテ感のある、ちょっと見男の子願望丸出しの恥ずかしさも、前作より強く感じられるところであります。

この手の青春ミステリーものは、以下の二点においてぼくはあまり好きではありません。一つ、登場人物の間に成立している高校生的上下関係があまりにも強すぎ、おそらく登場人物の二倍くらいの歳のひとからすると、そんなに対して違わないのにと白けてしまうところ。二つ、対象とする読者の年齢層の設定が幾分低めなためか、文章が素直すぎ、衒学的であったり、偏執的であったりといった、ぼくの愛する小説の体裁からは遠く離れてしまうところです。本作は、どちらも微妙に感じられてしまうのだけれど、でも楽しめました。一つには、葉山君がずいぶん成長して、しっかりと考えられるようになり安定感を増したためだと思われます。二つ目については、これも微妙なところなのだけれども、脚注が各頁ごとに割り振られているような、学術書のある形式を踏襲しているところなどに、作者の「好きなものを書きたい!」という偏執的な欲望を感じられるからだと思います。

物語自体は、全体的になんとなく先の読める、なおかつ予定調和でハッピーに収束するという、これまたありきたりなもののような気がするのですが、でも同様の作品と比べると明らかに質が高く感じます。これは、本作と前作をセットで読めばわかるように、作者の物語の作り込みに対する大きな欲望が、ものがたり全体を引き締めているからではと思いました。さらっとよめる、良作ですよ。