斎藤美奈子:誤読日記

誤読日記 (文春文庫)

誤読日記 (文春文庫)

おもにベストセラーを読みあさり、その感想を基本的に冷ややかな目線でつづったもの。

本書は間違いなく単行本で一度読んだことがあるが、文庫になっていたのでまたしても買ってしまい、またしても楽しく読み通してしまいました。その理由の一つには、文庫版出版時にあらたに斎藤氏による脚注が付け加えられたことがありますが、それ以上に今回は本の読み方について、おもしろく考えさせられたのです。

斎藤氏は基本的に「これのどこがいいの?」という視点から、対象とする著作を解説してゆきます。ものによっては、もういかなる期待も抱かず、そのくだらなさを一つの特徴ととらえ、その視点から評価するという、極めて意地の悪いというか、こちらとしてはとても痛快な読みまで披露する。

僕は斎藤氏の文章は大好きなのだけれど、なにか物足りないなあと思うものも感じていました。それは、どんなに斎藤氏があきれ馬鹿にし罵倒しようとも、その対象となった小説なり文章なりに、何らかの興味を感じてしまうからなのです。これはつまり、いかなるものであっても、斎藤氏は文章を愛していて、その辛辣なことばも、結局は文章への愛情へと回帰してゆくということなのかなあと思っていました。しかし、今回読んでみて、少し違った印象を受けました。なんとも言語化が難しいのですが、斎藤氏は「読み」の多様性を追求しているのではないかなあと。どんなものにも、読み手なりのそれぞれの読みがあり得るはずで、その具体例として、世間の評判や宣伝戦略で「読み」が大きな影響をうけるベストセラーを取り上げているのではないか。そのため、結果として斎藤氏の「読み」はかなり冷ややかなものとなるのではと思います。

でも面白かったのは、ほとんどのベストセラーが切って捨てられる中で、「本でニュースをふりかえる」と題された章に集められた著作の多くを、斎藤氏には珍しく高く評価しているところです。なぜなのか、よくわかりませんが。