岩田規久男:日本銀行は信用できるか
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/08/19
- メディア: 新書
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これぞ新書と言いたくなるような、みごとな一冊です。まず日銀を説明するのに、代々の総裁の出身大学と学部の話からはじめるところから素晴らしい。この、誰でもぐっとくるつぼをあらかじめ突いておいた上で、著者は一転して分析的な日銀の方針分析をはじめます。それも、嫌味なことに日銀または日銀関係の研究所の作成したデータを使ったりする。また、国際比較もがんがん交え、どれだけ日銀の政策が不可解であり、その根拠性に疑問があるか、もうそれ以上は日銀がかわいそうだよ、と思わせるまで徹底的に追求します。そして最後は日銀のこれからのありかたについて、基本的には批判的な立場の一方で、文面的には暖かい応援におもえる文章でしめくくるところも憎らしい。
やはり新書はこうでなくては。まず、主題がわかりやすい(日銀はおかしい)。それを、極めて分かりやすいレベルで説明する(日銀は東大法学部に牛耳られている)。読者が乗ってきたところで、一気に論理的に責め立てる(日銀はなぜインフレターゲット政策を取らないのか)。そんなのよくわからない読者に対し、国際比較という誰もが受け入れたくなってしまうデータを実証的に示す(インフレターゲット政策を取った国では成長率、失業率ともに改善している)。また、全篇を通じて伝えたい事柄が一つと言うところも、とても分かりやすくて助かります(日銀はインフレターゲット政策を取るべき)。
研究者の本分が、難しいことをわかりやすく説明することにあるとすれば、本書はまさにそれを地で行くような一冊だと思います。とても分かりやすく説得的だったのだけれど、一方でいくつか気になるところも散見されます。例えば、データとして示されている指標がどれだけ信頼できるのか。また、マクロ指標ばかりだけれども、その他の指標は考慮しなくて良いのか、または日銀の政策決定の中で、考慮されている項目が抜けているのではないか。加えて、引用されている文章の抜き出しかたは本当に妥当なのか。
でもこのような事柄は、本書を読んで疑問を持った人が考えれば良いと思う。とにかく、伝えたいことを伝えるという一点において、本書はまさにお手本とするような一冊だと思います。文章もとても切れよく練られていて、じっくりと書かれたことが伺えます。