河野哲也:暴走する脳科学 哲学・倫理学からの批判的検討

暴走する脳科学 (光文社新書)

暴走する脳科学 (光文社新書)

「心」のあり方を哲学・倫理学の視点からあれこれ考えてまとめたもの。

脳トレ」の疑似科学的な側面をぐさぐさ批判するものかと思ったら、ものすごくまじめな「心」に関する哲学的考察でびっくりしました。読んでみようと思ったのは、目次に「リベットの研究(自分がなにか動作をしようと「思う」前に脳内では信号が発せられていることを示したもの)」にからめた自由意志に関する章があったからで、これはこれで面白かったのですが、いかんせん全体的に難しい。

筆者も「理工学系の簡潔で明解な論述になれた人の目には、哲学の議論はややもすると、くどくて、言葉の使用に慎重すぎ、重苦しく思えるかも知れないが、最後までお付き合いしてくださることを希望している」と11頁目にして丁寧に語られているので、こんなことを書くのも心苦しいのだけれど、最後まで読み通したもののその道はあまりに険しく、睡魔との闘いにあまりに多くの精神力を消費した結果、なにが書いてあったのか良く憶えていないという、まことに残念な時間をすごしてしまいました。

まあ、哲学というもの、もしくは倫理学というものは、ことばひとつひとつを重んじ、それによってあたりまえと思われていることの欺瞞性であったり、隠れた素晴らしい点を説明したり、迷ったときにこころの道しるべとなってくれるようなものだとは思うのだけれど、でも、これは「光文社新書」ですよ。新書と言えば、薄くて細長いので鞄にもおさまりがよく、通勤のとぎれとぎれの時間の連続の中でも読み続けることのできる内容のまとまりのよさが売りだと思うのですが、これはきつかったなあ。だいたい学者という人々は、難しい事柄を本質を失うことなく簡単に説明することがその本分の一部だと(勝手に)思っているわたしからすれば、哲学は学者しかわからないものではきっとないはずで、その意味でもちっと柔らかく書いてもらえれば良かったように思ってしまいます。これが岩波のハードカバーなら、また違った感想だったような気もするのですが。